『生きちゃった』から『この恋あたためますか』まで 映画やドラマにおける仲野太賀の重要度
この2020年も、映画界における自身の重要度を示した仲野太賀。これまでは“若きバイプレイヤー”の一人として、脇から作品のクオリティを底上げするような役どころを担っていた印象があったが、今年は間違いなく彼の代表作と呼べる作品も誕生した。仲野はこの1年で、いくつかの名刺代わりの作品を得たのだ。
衛藤美彩とのダブル主演作『静かな雨』の公開で幕を閉けた仲野の2020年。その後に新型コロナウイルスが猛威をふるい、新たな俳優活動は制限されることとなったのではないかと思うが、下半期には立て続けに彼の出演作が公開された。ちょうどそのはじまりが、それまで閉館を余儀なくされていた映画館が、少しずつ活気を取り戻しはじめた頃のことである。
少年が祖父母を殺害するという実際に起こった事件をモチーフに描いた『MOTHER マザー』と、喧嘩はそれなりに強いものの間の抜けた番長・今井役を好演した『今日から俺は!!劇場版』が7月に公開。前者は非常にシリアスな作品であり、後者での今井というキャラクターは仲野のハマり役となって、映画館再興の一翼を担った。この同時期に毛色の異なる作品でタイプ違いの役を演じる仲野を見たことによって、これまでも彼に対して抱いていた演じ手としての振れ幅の大きさを再認識させられることとなった。
その直後には、青春映画『#ハンド全力』が封切られ、ハンドボールに打ち込む主人公(加藤清史郎)のイケイケな兄役をハイテンションで演じ、『僕の好きな女の子』では素朴な青年に扮し、主人公(渡辺大知)とヒロイン(奈緒)の存在を立てながらも、その人物造形のリアリティによって、彼自身も静かに存在感を示した。
秋に入ると、主演作『生きちゃった』『泣く子はいねぇが』が公開。この二作こそ、仲野の“代表作”と呼べるものだ。それは何も、主演を張ったからということではなく、両作で演じた“大人になりきれないでいる青年”役は、彼以外には演じられないのではないかと思うほどの適役だと感じたからだ。両作での青年役は、どちらにも“幼さ=未熟さ”が見られる。それでいて、いずれの作品も“生き方”を描いたものだと感じた。その場を取り繕うように笑顔を見せる“彼ら”の姿を前にして、身につまされる思いをしたのは筆者だけではないのではないだろうか。それらを等身大で演じているように思えた仲野の姿は、まるで鏡のようでもあったのだ。