不倫ドラマの“お約束”に2020年の“今日性”を反映 『恋する母たち』が異彩を放つ理由
『恋する母たち』の“エクスキューズ”は何か。それは、「否応なしにふりかかる不倫」ではないだろうか。夫が会社の金を着服し、女と失踪したことを突如知らされ、パニックになり、“キレ抱かれ”してしまう杏。モラハラ夫の不倫に悩む中、パーティーで同席した落語家・今昔亭丸太郎(阿部サダヲ)の天才的な口八丁と手練手管でグイグイ口説かれ、あれよあれよと彼に惹かれてしまうまり。出張先のホテルのブッキングミスから、イケメン年下部下の赤坂(磯村勇斗)と同室に泊まるハメになり、シャワーから出てきたら「もう我慢できない!」と彼に全裸で待ち構えられる優子(吉田羊)。いずれもかなりの力技展開ではあるものの、「この状況じゃあ仕方ないね」と思わせる作劇になっている。こうした、ちょっと笑ってしまうような“ご都合展開”や「ツッコミ待ち」とも思えるエピソードも、このドラマの持ち味だ。「所詮、人間なんて滑稽な生き物である」ということか。
またこの作品は、これまでの不倫ドラマの「おいしいとこ取り」もしている。『ホリデイラブ』(2018年/テレビ朝日系)に見られた「夫の不倫相手による逆ギレ復讐劇」のドロドロ要素は、まりの夫・繁樹(玉置玲央)の不倫相手・のり子(森田望智)のエピソードが担っている。森田望智の振り切った演技が白眉だ。『セカンドバージン』で視聴者が沸いた「バリキャリ女子と年下イケメンの不倫」の要素は優子のエピソードに託されている。「ツッコミ待ち」とも思えるドラスティックな展開は『奪い愛、冬』(2017年/テレビ朝日)あたりに親和性を感じる。
このように、様々な仕掛けがほどこされた本作。「また不倫ドラマ? もうさんざんやったでしょう」と食わず嫌いせずに、試しに観てみたらハマることうけあいだ。つまり、これまで数多作られてきた「不倫ドラマ」というジャンルこそが、バリエーションや手法の違いを楽しむエンターテインメントといえるのかもしれない。
■野田一
ドラマ・映画・音楽などエンタメ全般。昭和と令和を行ったり来たり。
■放送情報
金曜ドラマ『恋する母たち』
TBS系にて、毎週金曜22:00〜22:54放送
出演:木村佳乃、吉田羊、仲里依紗、小泉孝太郎、磯村勇斗、森田望智、瀧内公美、奥平大兼、宮世琉弥、藤原大祐、渋川清彦、玉置玲央、矢作兼、夏樹陽子、 阿部サダヲ
原作:柴門ふみ『恋する母たち』(小学館 ビックコミックス刊)
脚本:大石静
チーフプロデューサー:磯山晶
プロデューサー:佐藤敦司
演出:福田亮介
製作:TBSスパークル、TBS
(c)TBS