劇場デビューから10年 瀬田なつき作品が持つ“浮遊感”の魅力を紐解く

瀬田なつき作品が持つ“浮遊感”の魅力

映画「PARKS パークス」予告

 それは、橋本愛を主演に迎えたオリジナル長編『PARKS パークス』にも通じる。100周年を迎えた吉祥寺の井の頭公園を舞台に、3人の少年少女が叔母の恋愛模様を追いかける物語。過去と現在が入り組み、生活の延長にある公園で現実なのか幻想なのかわからなくなる曖昧な出来事が巻き起こる。それは、瀬田の特徴である「軽さ」によって違和感なく演出されていた。

 また、「空間」の切り取り方も瀬田作品独特のものだろう。横浜・黄金町を舞台にした5本の短編『5windows』は、その内の4本が屋外上映されることを前提に編集や音響も特別に作られた。『ジオラマボーイ・パノラマガール』では、東京オリンピックを目前に控えた東京の街並みが、彼女たちの心情を反映していた。渋谷の横断歩道を闊歩する姿は、自由への期待で溢れていた。

 時間や時代、場所、関係、あらゆるものを飛び越えて拡張していく瀬田作品の軽やかさは、強ささえも感じる。切なさや憂いといった目立たない感情もやさしく包み込み、変容することを認めてくれる。そうして、つかめない未来に向かって行ったり来たりを繰り返しながら、「ここではない何処か」を夢想することを思い出させてくれるのだ。留まらず、羽ばたいていく推進力は、まだ見ぬ私と出会わせてくれるかもしれない。

■羽佐田瑶子
ライター。映画会社、訪日外国人向け媒体などを経て、現在はフリーのライター、編集。関心事はガールズカルチャー全般。主な執筆媒体はQuick Japan、She is、テレビブロス、CINRA.NETなど。Twitter

■公開情報
『ジオラマボーイ・パノラマガール』
全国順次公開中
脚本・監督:瀬田なつき
出演:山田杏奈、鈴木仁、滝澤エリカ、若杉凩、平田空、持田唯颯、きいた、遊屋慎太郎、斉藤陽一郎、黒田大輔、成海璃子、森田望智、大塚寧々
原作:岡崎京子『ジオラマボーイ・パノラマガール』(マガジンハウス刊)
配給:イオンエンターテイメント
2020年/日本/105分/カラー/シネスコ/5.1chデジタル
(c)2020岡崎京子/「ジオラマボーイ・パノラマガール」製作委員会
公式サイト:gbpg2020-movie.com
公式Twitter:@gbpg2020_movie

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