劇場デビューから10年 瀬田なつき作品が持つ“浮遊感”の魅力を紐解く

瀬田なつき作品が持つ“浮遊感”の魅力

「全部気のせいだったらどうしよう」

 映画『ジオラマボーイ・パノラマガール』の中で、主人公のハルコ(山田杏奈)は初めて恋をして、うだつがあがらない恋愛模様にため息まじりにつぶやく。自分の気持ちは自分の中に“たしかに”あるはずなのに、現実がつかめなくなってしまうことがある。身体からはみ出してしまう、言葉にできないふわふわと浮いているような感覚をすくい取って、そのままの状態でポンと物語の中に鎮座させる。どこに向かうかも読めない、カテゴライズされない、作品全体を漂う「浮遊感」は瀬田なつき作品の大きな魅力だと感じる。

 瀬田なつきは、今年で劇場デビューから10年を迎えた。現在公開中の『ジオラマボーイ・パノラマガール』をはじめ、『PARKS パークス』『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』など映画作品に限らず、最近は満島真之介主演の連続ドラマ『カレーの唄』(ひかりTVほか)や仲野太賀主演の深夜ドラマ『あのコの夢を見たんです。』(テレビ東京ほか)など幅広く映像作品を手がけている。一貫する浮遊感は、正しさを突きつけられる現代に必要な余白のように思う。ここで、瀬田なつきが生み出してきた作品を振り返っていきたい。

 瀬田は、東京藝術大学大学院映像研究科を修了。教授陣には北野武監督、黒沢清監督など堂々たる布陣。先輩には『君の膵臓を食べたい』の月川翔、同期には『寝ても覚めても』の濱口竜介、後輩には『宮本から君へ』の真利子哲也など、日本映画界を牽引する新世代監督がいる。

 彼女は、修了制作として『彼方からの手紙』(2008年)を監督。自主制作にして、東京国際映画祭チェアマン特別奨励賞を受賞した。ロードムービーのような、一言ではまとめられないファンタジックな物語は瀬田作品の真髄を表している傑作だ。

 後の『あとのまつり』(2009年)も、2095年という宇宙的時代設定。次々と記憶が消えていく世界でもがきながら生きる少女の話は、19分という短編ながら瀬田の作品世界を存分に体験することができる。

 2011年、『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』で商業映画デビュー。幼い頃のトラウマで心が壊れてしまったまーちゃん(大政絢)と、「嘘だけど」が口癖の謎の少年みーくん(染谷将太)という奇妙な幼なじみの青春群像劇は世界各国の映画祭でも上映され、話題を集めた。『あとのまつり』が特に色濃いが、彼女の作品では突然走ったり、踊ったりする。『ジオラマボーイ・パノラマガール』では、主人公たちは踊るように街中を歩いていた。その画は瀬田が影響を受けたヌーヴェルヴァーグ時代の作品を彷彿とさせ、突如巻き起こる非日常が自然と日常に取り込まれてしまう。奔放さが、日常に潜むファンタジーを浮かび上がらせるように感じるのだ。

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