『鬼滅の刃』大ヒットがもたらす、ソニーのアニメ世界市場制覇計画
そのソニーがクランチロールの買収に王手をかけたという報道が『鬼滅の刃』の記録的ヒットと同時にもたらされた。今年初めからクランチロールの売却を企てていたAT&T(ワーナー・メディアの親会社)が、ソニーとの合意に達しそうだと、日経新聞の報道を元にVarietyなど映画業界専門誌が報じている。売却金額は1000億円と言われ、クランチロールが保持する世界200カ国以上の有料会員300万人、無料会員7000万人の顧客とデータを手に入れる。ワーナー・メディアのストリーミング・サービスHBO Maxにはクランチロールのアニメが多数配信されているが、同社はスタジオジブリの北米配信権も保持しているため、これ以上のアニメへの投資は不必要との判断だったのかもしれない。クランチロールは、ビデオ配信のほかコミックの配信、オンラインゲーム、グッズの販売、アニメコンベンションの開催などアニメに付随する消費動向をくまなく拾い上げているプラットフォーム。実は、ファニメーションとクランチロールの2大アニメプラットフォームは、2016年から2018年のAT&Tによるクランチロール買収まで提携し、双方向作品供給を行っていた。もしもこのままソニーがクランチロール買収を進めたら、二つのプラットフォームは一つの会社の傘下に収まることになる。
クランチロールは2006年にアメリカで創立。もともとはアニメファンの一般人による動画投稿サイトだったが、会員数が激増したことに伴い違法コンテンツを除去。2008年にテレビ東京と契約したことをきっかけに提携社を増やし、公式配信サイトへと転換していった。無料会員にはカタログコンテンツを広告付きで配信、有料会員向けのサービスにはサイマル配信があり、日本で放送された直後に最新話が配信される。同社による報道発表によると、2020年4~6月の視聴データで『鬼滅の刃』がよく観られているのは南米各国、北米では『BORUTO-ボルト- NARUTO NEXT GENERATIONS』『食戟のソーマ』『ハイキュー!!』『ジョジョの奇妙な冒険』『僕のヒーローアカデミア』といった作品がよく観られているという。
先月行われたNYコミコンのパネルでファニメーションとアニプレックス・アメリカの代表が語ったところによると、『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』(英題:Demon Slayer: Kimetsu no Yaiba the Movie: Mugen Train)の北米公開は2021年初頭を予定しているとのこと。クランチロール買収、そしてファニメーションとの合併が正式に決まれば、ソニーは北米から世界へ向けてアニメ・ストリーミングを牛耳ることができる。『鬼滅の刃』が世界でも大ヒットとなれば、ソニーによるアニメ大国創立のこの上ないご祝儀とドライビング・フォースになることだろう。
参考
・https://www.funimation.com/
・https://www.crunchyroll.com/
・https://www.nytimes.com/2020/10/20/business/demon-slayer-japan-movie.html
・https://asia.nikkei.com/Business/Business-deals/Sony-nears-acquisition-of-US-anime-streaming-service-Crunchyroll
・https://www.polygon.com/2020/10/9/21510213/demon-slayer-movie-infinity-train-us-release-date-nycc-2020
■平井伊都子
ロサンゼルス在住映画ライター。在ロサンゼルス総領事館にて3年間の任期付外交官を経て、映画業界に復帰。
■公開情報
『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』
全国公開中
声の出演:花江夏樹、鬼頭明里、下野紘、松岡禎丞、日野聡、平川大輔
原作:吾峠呼世晴(集英社『週刊少年ジャンプ』連載)
監督:外崎春雄
キャラクターデザイン・総作画監督:松島晃
脚本制作:ufotable
サブキャラクターデザイン:佐藤美幸、梶山庸子、菊池美花
プロップデザイン:小山将治
コンセプトアート:衛藤功二、矢中勝、樺澤侑里
撮影監督:寺尾優一
3D監督:西脇一樹
色彩設計:大前祐子
編集:神野学
音楽:梶浦由記、椎名豪
主題歌:LiSA「炎」(SACRA MUSIC)
アニメーション制作:ufotable
配給:東宝・アニプレックス
(c)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable
公式サイト:https://kimetsu.co