『鬼滅の刃』大ヒットがもたらす、ソニーのアニメ世界市場制覇計画

 日本で空前のヒットとなっている『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』については、アメリカでも驚きと羨望の的として報道されている。ニューヨーク・タイムズは「パンデミックだって? 過去最高の観客動員数を記録した日本映画」と題し、劇場営業が許可された日本では新型コロナウイルスの脅威を心配することなく人々が劇場に戻っている現実をレポートしている。アメリカ国内の多くの映画館は3割~5割の収容率で営業を再開しているが、ニューヨーク市内、ロサンゼルス市内といった大都市では依然として閉鎖されたままだ。

 NATO(全米劇場所有者協会)は、このままの状態が続くと来年1月には7割近くの映画館経営者が破産する恐れがあると警告している。そんな状況の中、日本ではすでに映画館の100%の収容率が認められ、さらには過去最高の興行収入をあげる作品が出ているとは、遠い世界の夢物語のように見える。

米Huluの『鬼滅の刃』配信ページ

 現状のアメリカでの『鬼滅の刃』に対する認識はまだアニメファンの域を出ていない。アメリカのストリーミングでは、ディズニー系のHulu、ワーナーメディア傘下の日本産アニメに特化したストリーミング・プラットフォームのクランチロール(Crunchyroll)、90年代に『ドラゴンボール』のアニメ配給で名を馳せたアニメ制作配給会社、ファニメーション(Funimation)、放送ではアニメ放送局カートゥーン ネットワークの18歳以上向け23時以降放送帯のアダルトスイム(Adult Swim)で観ることができる。日本のようにNetflixやAmazon Prime Videoでは配信していないので、Hulu以外はアニメ専門の放送かストリーミングサービスに限定されている。

 『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』の日本での観客動員の平常化以外で注目されているのは、『鬼滅の刃』の制作・配給を手がけるアニプレックスと、親会社のソニーの動きだ。上記のアニメ専門ストリーミングサービスのうち、ファニメーションは2017年にソニー・ピクチャーズ・テレビジョンが買収、2019年にはアニプレックスとファニメーションが国際的なアニメ・ストリーミングサービスのファニメーション・グローバル・グループを合弁で設立している。テキサス州に本社機能を置くファニメーションは日本アニメ専門の配信プラットフォームとして北米最大規模を誇り、映画の配給も行っている。新海誠監督の『君の名は。』(2016年)や『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』(2020年)、実写作品では『キングダム』(2019年)や『シン・ゴジラ』(2016年)の北米配給も手がけている。ハリウッド5大スタジオ(ディズニー、ソニー、パラマウント、ユニバーサル、ワーナー)のうち、ソニーのみ総合ストリーミングサービスを所有していないので、ファニメーションはHuluと提携し作品供給を行っている。また、中国の動画配信サービスのビリビリ(bilibili)との提携も発表し、アニメを世界へ配信する準備を着々と整えている。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「アニメシーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる