山崎育三郎、「夜更けの街」歌唱で見せた久志の葛藤 『エール』が描く“戦犯”とされた者の苦しみ

山崎育三郎、「夜更けの街」歌唱で見せた久志の葛藤 『エール』が描く“戦犯”とされた者の苦しみ

 久志(山崎育三郎)を酒と博打の自暴自棄に走らせたのは、議員の一人息子として跡を継がずに、歌手の道を志した自身の選択。戦時歌謡のヒット曲「露営の歌」の歌い手として有名になった代償に、戦後、久志は福島の知人から「戦犯」として忌み嫌われ、そのことが生前に父を苦しめてしまっていた。

 『エール』(NHK総合)第99話にて、久志はもう一度マイクと向き合うこととなる。藤丸(井上希美)にも、裕一(窪田正孝)にも、聞く耳を持たなかった久志を振り向かせたのは、劇作家の池田(北村有起哉)。サイコロを使った博打・丁半で久志に仰々しく迫り、丁(偶数)が出たら池田が財布の有り金を全部くれる、半(奇数)が出たら「おごれ」の一言。サイの目は「三と四」。池田の勝ち。2人は智彦(奥野瑛太)が店主のラーメン屋台へ。

 なんとも強引で大胆な立ち直らせ方だが、池田の目的はその先にあった。裕一が生涯の友と呼び、助けたいと熱意を向ける久志に直接会い、詞を書くため。裕一が曲をつけ出来上がったのが、「夜更けの街」。もちろん、歌うのは久志だ。

 「僕はまた君と一緒に音楽を作りたいと思ってる」。裕一の言葉に導かれ、久志はレコーディングスタジオに現れた。プリンスと呼ばれたあの栄光はどこへやら、すっかりみすぼらしい優男となった久志。緊張からか、歌い出せずにいる久志に藤丸がそっと近づき、腕を優しく握り、背中をポンッと押す。

 藤丸の言葉以上のエールに励まされた久志。目に野心に満ちた輝きが再び漲っていくようだ。魂のこもった堂々とした歌唱に裕一も固唾を飲んでその姿を見守る。「あいつはすごい」と再び久志の才能に惚れ込む裕一であったが、久志はまたもや泥酔状態を彷徨っていた。トラウマをフラッシュバックさせていたのは、「暁に祈る」のポスター。根元にあるのは戦時歌謡の歌い手としての罪。その心の傷は違うものの、裕一がかつて「とんがり帽子」で、「長崎の鐘」で償おうとしていた戦争への恐怖と重なる。

 「夜更けの街」を歌ったのは、博打の借金を清算するための金が必要だったから。恩を仇で返す久志に、鉄男(中村蒼)、藤丸さえも愛想を尽かすが、裕一はそれでも見捨てたりはしない。

「久志はやっぱり歌うべきだ」

 「夜更けの街」を聴いて、心揺さぶられた裕一。決して、お金欲しさなんかではない。そのことを理解し、寄り添えるのは裕一しかいなかった。

 裕一が久志に歌ってほしいと願う野球大会の歌「栄冠は君に輝く」。非情にも、記者・大倉(片桐仁)から告げられたのは、戦時歌謡の歌い手として捉えられた久志への厳しい評価だった。

■渡辺彰浩
1988年生まれ。ライター/編集。2017年1月より、リアルサウンド編集部を経て独立。パンが好き。Twitter

■放送情報
連続テレビ小説『エール』
2020年3月30日(月)〜11月28日(土)予定(全120回)
※9月14日(月)より放送再開
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45
※土曜は1週間を振り返り
出演:窪田正孝、二階堂ふみ、薬師丸ひろ子、菊池桃子、光石研、中村蒼、山崎育三郎、森山直太朗、佐久本宝、松井玲奈、森七菜、柴咲コウ、風間杜夫、唐沢寿明ほか
制作統括:土屋勝裕
プロデューサー:小西千栄子、小林泰子、土居美希
演出:吉田照幸、松園武大ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/yell/

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