『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』で描かれる家族の肖像を読む 竈門炭治郎の精神的な成長

劇場版『鬼滅の刃』が描く家族の肖像

 怒涛の展開の連続であるアニメ『鬼滅の刃』。公開中の『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』(以下、『無限列車編』)もテレビアニメ『竈門炭治郎 立志編』と同様、非常に情報量の多い作品だ。そのなかでも注目したいのが、主人公・竈門炭治郎の家族の肖像と、彼自身の精神的な成長である。

 本作『無限列車編』は、テレビアニメ版に続くもの。炭治郎、我妻善逸、嘴平伊之助ら三人の、蝶屋敷での修練の結果が見られるタームだ。今作で対峙する敵は予告編でも分かるとおり、十二鬼月の一人である“下弦の壱”・魘夢。彼は「眠り鬼」であり、敵対する者を眠りにつかせ、夢を見させる血鬼術を使う。この術にかかった炭治郎は夢の中で、亡くなった家族と“再会”を果たすのだ。

 炭治郎の家族といえば、テレビアニメの冒頭で一家惨殺され、その後は彼のフラッシュバックなどとして、断片的にしか登場してこなかった。炭治郎と妹の禰豆子の兄妹愛が本作の軸の一つだが、竈門家の絆の強さを描写として垣間見ることができるのが、この『無限列車編』なのである。

 夢から覚めて、ずっと夢のままであったらよかったのにと思うことがある。それは夢の中で展開する世界が、自分の理想とするものに近いからにほかならない。夢から覚めて現実世界に戻り、ふたたび夢の世界に入るために眠りを貪ろうとすることもしばしばある。これは誰しも身に覚えがあることだろう。同じように炭治郎も眠りにつき、幸福な夢を見る。彼にとっての幸福とは、笑顔の絶えない家族とともにあることだ。しかし、その幸福(=夢)の代償として、現実を差し出さなければならない。夢の中にある理想と、現実。そのどちらを選び取るかは彼に委ねられている。

 「夢」を主題として扱った作品は数多く存在するが、個人的には幼少期にビデオテープが擦り切れるまで繰り返し観た、『ドラえもん のび太と夢幻三剣士』(1994年)が思い入れ深い。あれは幸福な夢を見たのび太の、「もっと夢の中にいたい……!」というワガママを聞き入れたドラえもんが、ひみつ道具の一つである「気ままに夢見る機」を使うことによって、思いのままに夢を楽しむことができる世界が描かれたものだった(もちろん、幸福な夢だけでは終わらないのだが……)。のび太の気持ちは、子どもながらに痛いくらいによく理解できたものだった。それほどまでに夢の中の世界とは、ときに幸福感をもたらしてくれる。

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