『エール』が迎えた1945年8月15日の終戦 クレジットからも滲む言葉にできない裕一の思い

『エール』が迎えた8月15日の終戦

 インパール作戦によるビルマ前線での地獄のような惨劇、さらに藤堂(森山直太朗)の戦死は、裕一(窪田正孝)に強いショックを与えていた。それは目の前で亡くなっていった恩師の姿と、「何も知りませんでした」「ごめんなさい」と自責の念に苛まれるほどの悲惨な現実。裕一が必死に否定していた、命を尊重しない無駄な死がそこにはあった。『エール』(NHK総合)第89話では、裕一たちの終戦までの日々が描かれる。

 戦地から日本に帰ってきた裕一は、そのまま藤堂の妻・昌子(堀内敬子)が待つ福島へ。藤堂から裕一に託された手紙を渡すためだ。昌子が流れる涙とともに口にしたのは、「もう一度会いたい」という夫への真っ直ぐな愛。生前の藤堂と思いは一緒だった。裕一は音(二階堂ふみ)や華(根本真陽)、まさ(菊池桃子)、浩二(佐久本宝)と再会し笑顔を取り戻すが、心はどこか空っぽになってしまっていた。

 「僕は先に帰る。しばらく一人でいたい」。一点を見つめ塞ぎ込む裕一の表情を見て、音は戦地で何があったのかを悟る。藤堂の訃報を聞き、弔いがしたい、無念を晴らしたいと歌詞を綴ってきた鉄男(中村蒼)にも、裕一は藤堂がなんのために戦っていたのかと、空虚な表情。作曲へのプライドもなく、軍のために曲を作り続ける裕一の姿は、自分の行いの正当性すらも見失ってしまっている。

 昭和20年6月19日、豊橋では市街地の7割を焼き尽くすほどの空襲を受けていた。関内家もその被害に遭い、シーンは真っ赤な炎に包まれる。燃え盛る街に泣き喚く声。大事な原稿を持ち出すため家に戻る梅(森七菜)を追いかけようと、光子(薬師丸ひろ子)は頭からバケツの水を被るが、それを止め代わりに岩城(吉原光夫)がまた水を被り家の中へ。どうすることもできない光子の叫び声がこだまする。焼け焦げた家の瓦礫から光子が見つけたのは焼けただれぐったりとした梅と岩城の姿だった。

 そして、昭和20年8月15日。日本敗戦。ラジオから流れる玉音放送と蝉の声、縁側で佇む裕一の寂しげな背中が言葉以上にその無念な思いを物語っている。さらに衝撃だったのは、白の背景に黒の文字で記されたシンプルなキャスト、スタッフ陣をまとめた1枚画。チーフ演出・脚本を務める吉田照幸へのインタビューの中で、しばらくタイトルバックが入らないことは明かされていたが、この見せ方は朝ドラとしては異例中の異例だろう。リアルな戦場が描かれた第88話とはまた別の、言葉にできない終戦の思いを裕一の背中と共に伝えている気がした。

 明日から『エール』は戦後へと突入する。

■渡辺彰浩
1988年生まれ。ライター/編集。2017年1月より、リアルサウンド編集部を経て独立。パンが好き。Twitter

■放送情報
連続テレビ小説『エール』
2020年3月30日(月)〜11月28日(土)予定(全120回)
※9月14日(月)より放送再開
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45
※土曜は1週間を振り返り
出演:窪田正孝、二階堂ふみ、薬師丸ひろ子、菊池桃子、光石研、中村蒼、山崎育三郎、森山直太朗、佐久本宝、松井玲奈、森七菜、柴咲コウ、風間杜夫、唐沢寿明ほか
制作統括:土屋勝裕
プロデューサー:小西千栄子、小林泰子、土居美希
演出:吉田照幸、松園武大ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/yell/

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