三浦春馬さんへの愛を語った登場人物たち 奇跡の最終回となった『おカネの切れ目が恋のはじまり』
連続ドラマは放送開始時、既に最終話まで撮りきっていることもあるが、多くの場合は同時進行で撮影中。日本でも、韓国ドラマほどの頻度でないものの、視聴者の反応を見てストーリーや設定を変えることだってある。また、通常3ヶ月の放送期間に現実社会でも変化が起きるので、それをいち早く採り入れることもできる。連続ドラマの面白さはそこにあると思う。例えば、『MIU404』(TBS系)の最終回で、主人公たちが当初は予定してなかったであろうマスク姿で現れたことは記憶に新しい。ただ、今回のようにその“変化”が主要キャストの急逝だった場合どうするのか。チーム『カネ恋』は、まず作品をお蔵入りにせず放送を決断し、話数を半分にして脚本を変更し完結させることを選択。そして、それだけでなく、作品を通して三浦春馬という俳優の魅力を再確認し、みんなで笑って送り出したいという願いまで叶えてくれたように思える。最終回に慶太が出てこないことで彼の死を受け入れられた人もいただろうし、ラストシーンによって悲しかった気持ちが救われた人もいただろう。
ラストシーンでは役から一歩踏み出し、辛い現実を見据えてそれでも笑ったような松岡茉優の表情が素晴らしかった。おそらくこれまでの収録分で慶太が「玲子さん」と呼びかける音声のストックはあったと思うが、制作陣はそれを使わなかった。三浦の演技は、その場面ごとに合わせたものであり、彼が演じていない慶太は慶太ではないという判断だろうか。そこにクリエイターたちの誠実さを感じた。特に、脚本の大島里美は『凪のお暇』(TBS系)では完結していない原作の世界観を壊さず、ドラマオリジナルの結末を描き出すなど、構成の巧い人ではあるが、この最終回には拍手を贈りたい。
最後に、改めて本作のテーマである「ほころび」とはなんだろうと考えてみたい。ふだんは1円単位でしっかり節約している玲子が早乙女のためなら惜しみなくお金を使ってしまうこととか、イケメンで御曹司の慶太が実務的な仕事はまったくできないこととか、別れた夫に罪悪感を抱える玲子の母(南果歩)が夫の送金を少し使ってしまったこととか、「こうありたい」と理想を追っている人がそのとおりには生きられないことを「ほころび」と呼ぶのかもしれない。妻子の存在がばれバッシングされた早乙女を玲子はこう言って力づけた。「ほろこびがあったほうが、人間らしくて素敵ですよ」。そして、「物って繕うほどに愛着がわくものだから」とも。
それはこのドラマのメッセージであり、また亡くなった人にもリンクする言葉となった。人間なら誰しも「ほころび」があるものだし、それがその人の魅力になる。壊れた人間関係も、壊れたもののように「つくろえる」ことがある。玲子が「ほころびだらけで」と形容した慶太を愛すべき人物として演じきった三浦春馬のラストスマイルと共に記憶しておきたい。
■小田慶子
ライター/編集。「週刊ザテレビジョン」などの編集部を経てフリーランスに。雑誌で日本のドラマ、映画を中心にインタビュー記事などを担当。映画のオフィシャルライターを務めることも。女性の生き方やジェンダーに関する記事も執筆。
■リリース情報
『おカネの切れ目が恋のはじまり』
2021年3月5日(金)Blu-ray&DVD発売
出演:松岡茉優、三浦春馬、三浦翔平、北村匠海、星蘭ひとみ(宝塚歌劇団)、大友花恋、稲田直樹(アインシュタイン)、中村里帆、八木優、河井ゆずる(アインシュタイン)、キムラ緑子、ファーストサマーウイカ、池田成志、南果歩、草刈正雄
脚本:大島里美
演出:平野俊一、木村ひさし
プロデュース:東仲恵吾
主題歌:Mr.Children「turn over?」(トイズファクトリー)
製作著作:TBS
発売元:TBS
発売協力:TBSグロウディア
販売元:TCエンタテインメント
(c)TBS
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