夏ドラマ『半沢直樹』から秋ドラマ『タリオ 復讐代行の2人』まで……2020年は復讐モノ量産?
権力者は法律に守られ、犠牲になるのは常に弱者だ。では、法では裁けない悪に対し、人はどうすればいいのか?
普通なら、ここで泣き寝入りをしてしまうものだ。復讐なんて現実にはできない。だからこそ、行き場のない怒りの受け皿として、フィクションの中で復讐は描かれてきた。
復讐とは、法的には許されない「悪」を倒すために、私刑という「悪」をおこなう行為だ。そのため、多くの復讐譚はピカレスク・ロマンとなるのだが、ここで前述した「怪物と戦う者は、その過程で自らが怪物と化さぬよう心がけよ」というニーチェの言葉が効いてくる。
2013年の『半沢直樹』最終話で大和田に土下座させたのは、かつて父親が土下座をさせられたトラウマからだ。最終話の半沢の姿は、正義の銀行員として描かれてきた、これまでの役割を超えたもので、観ていて暴力的すぎて不快な感触すら感じられた。これは本作が半沢の行為を単純な正義として描いているのではなく、復讐という行為が人間を怪物にしてしまうという、残酷な側面も描いていたからだろう。
復讐は敵も味方も怪物に変えてしまう。だからこそ、本来の結末は破滅しかない。だが一方で、敵に近づきすぎることで「うっかり、相手を理解してしまう」という側面もある。
近くにいると情が移ってしまい、あれだけ憎んでいた相手が憎めなくなってしまうということもよくある話だ。それが2020年版における大和田の変化だろう。
そもそも、日本人は「悪人」や「怒り」を描くことが苦手なのではないかと思う。優しいのか忘れっぽいのかわからないが、話が続くほど、敵にも人間臭い愛嬌が生まれてしまい「彼なりの事情があったのだ」という見せ方に寄ってしまう。
その結果、悪役の人気が高くなってしまうことも多く、最終的な落とし所として、敵と味方が手を組んで、より強い敵に挑むという話になってしまう。
2020年度版の『半沢直樹』も、この構造をなぞっていた。話題になったため、この路線変更は大成功だったのだろう。しかし、前作にあった復讐譚としての緊張感は完全になくなってしまったように感じた。
復讐モノは、人を引きつけるサスペンスがあるのだが、破滅以外の結末に説得力をもたせることがとても難しい。『半沢直樹』の変遷を観て、改めてそう感じた。
■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。
■放送情報
ドラマ10『タリオ 復讐代行の2人』(全7回)
NHK総合、BS4Kにて2020年10月9日(金)スタート、毎週金曜22時
出演:浜辺美波、岡田将生 ほか
制作統括:川田尚広、高橋練、岡本幸江
演出:木村ひさし、山本透
WOWOWオリジナルドラマ『殺意の道程』
WOWOWプライムにて、11月9日(月)スタート 毎週月曜深夜0:00〜放送(全7話)
※第1話無料放送
出演:バカリズム、井浦新、堀田真由、日野陽仁、飛鳥凛、河相我聞、佐久間由衣、鶴見辰吾ほか
脚本:バカリズム
監督:住田崇
音楽:大間々昴
プロデューサー:高江洲義貴、大内登
製作:WOWOW SWEAT
公式サイト:https://www.wowow.co.jp/drama/original/satsui/
木曜劇場 『ルパンの娘』
フジテレビ系にて、10月15日(木)スタート 毎週木曜22:00~放送
※初回15分拡大
出演:深田恭子、瀬戸康史、橋本環奈、小沢真珠、栗原類、どんぐり、藤岡弘、(特別出演)、松尾諭、大貫勇輔、信太昌之、マルシア、我修院達也、麿赤兒、渡部篤郎
原作:『ルパンの娘』 『ルパンの帰還』 『ホームズの娘』 横関 大(講談社文庫刊)
脚本:徳永友一
プロデュース:稲葉直人
監督:武内英樹
制作・著作:フジテレビ 第一制作室
(c)フジテレビ
公式サイト:https://www.fujitv.co.jp/Lupin-no-musume2020/
公式Twitter:@lupin_no_musume
公式Instagram: @lupin_no_musume