『半沢直樹』が“あるべき未来”に向けて遺した名ゼリフ 仕事や社会に向き合う視聴者の活力に

未来に向けて『半沢直樹』が遺した名ゼリフ

「こわっぱああああ! はよやれええええ!」
箕部啓治(柄本明)

 不正を働いて私腹を肥やし続ける政府与党の箕部幹事長だが、なかなか不正の証拠を掴ませない。追及のためにやってきた半沢に対しては、悪鬼のごとく表情に豹変して土下座を強要する。これぞ恫喝。

「土下座しろと言ってるんだ……! 土下座をしろ! 土下座だ! 土下座っ! 土下座! 土下座だっ、土下座! 土下座、土下座、どげ、どげ、土下座ーっ! 土下座を、どげ、土下座ーっ! 土下座―っ! 土下座ああああーっ! 土下座だっ……」
大和田暁

 箕部と同席していた大和田が半沢を土下座させようとするが、実はその場を取り繕おうとしていただけだった。半沢に土下座させたかっただけのようにも見えたが、後に芝居だったと強弁していた。

「あなたはもはや政治家ですらない。欲にまみれた、ただの醜い老いぼれだ!」
半沢直樹

 国の政治を牛耳る実力者に対して「醜い老いぼれ」と言い切る半沢に「忖度」の二文字はない。

「やられたら、やり返す。倍……いや、3人まとめて1000倍返しだ!」
半沢直樹

 不正にまみれた箕部、中野渡、大和田の3人に向かって絶叫する半沢。大和田の目から一筋の涙が伝っていたことが大きな話題となった。

「桔梗です。花言葉は“誠実”。凛として、いつも真っ直ぐな白井大臣そのものでしょ? 応援してます。この国のこと、お願いします」
半沢花(上戸彩)

 箕部の不正を察知し、良心の呵責に耐えきれずに半沢の自宅を訪れた白井国交相に、彼女のファンを自認する花が、桔梗の花を渡して一言。花の真っ直ぐな言葉が、白井の心を揺らしていく。

「仕事なんかなくなったって、生きてれば何とかなる。生きていれば、何とかね」
半沢花

 再出向どころか、銀行を去らなければいけなくなるかもしれないと明かす夫を、抱きつきながら労る花。彼女の言葉は真理という他ないのだが、彼女がこう言ってくれたからこそ、半沢は辞表を用意して厳しい戦いに臨むことができたのだろう。

「半沢、君はいずれ頭取になる男だ。私は大和田くんには当行の過去を、そして君には未来を、それぞれ託した」
中野渡謙(北大路欣也)

 最終回に明かされた中野渡頭取の行動の謎。中野渡は大和田をあえて箕部の元に忍び込ませて、隠し口座のありかを探していた。土下座して以降、中野渡は大和田に旧T(東京第一銀行)の過去の不正融資について調べさせていたのだ。中野渡は大和田に過去の清算を託した上で、半沢に未来を託そうとしていた。

「ここは会見の場です。その態度、恥を知りなさい!」
白井亜希子(江口のりこ)

 自分の後ろ盾である箕部に反旗を翻すとともに、「このアマ!」と激昂するパワハラ常習犯の乃原に向かって、一歩も退かずに正論を放った白井。かつてはキャスターとして様々な疑惑を追っていた彼女にとって、権力者の立場を使って私腹を肥やして平然としている箕部も、女性蔑視を隠そうともせずマウンティングをしてくる乃原も許せない相手だった。

「はぁー? はあああ? すみません、最近ちょっと耳が遠くて。カッカッカ」
大和田暁

 箕部が得意としていた煽りを見事にやり返す大和田。「目には目を」が『半沢直樹』のルールだ。

「はい、1000倍。思いっきり、やり返しなさい」
大和田暁

 黒崎から送られてきた決定的な証拠を半沢に渡す大和田。毒っ気のないトーンだったが、思わずグッと来た視聴者も多かったんじゃないだろうか。これまで死闘を繰り広げてきた大和田と半沢が、初めて一つの目的を共有する上司と部下に戻った瞬間だった。

「幹事長、記憶にないで済むのは国会答弁の話です。ここは国会ではありません。そんな馬鹿げた言い訳、一般社会では通用しない」
半沢直樹

 証拠を突きつけられても「記憶にない」と逃げようとする箕部に追撃の一言。まさに一般社会で通用しない「馬鹿げた言い訳」が通用してしまうのが国会だったりする。特にこの数年はそんなことが続いてきた。

「説明できないのなら、謝罪すべきです。それが政治家として、人として、最低限度の義務ではないですか?」
白井亜希子

 白井が逃げようとする箕部を遮って一言。疑惑があっても、説明もしなければ謝罪もしない政治家が多い中、白井の言葉は実にまっとうだ。

「政治家の仕事とは、人々がより豊かに、より幸せになるよう政策を考えることのはずです。今、この国は大きな危機に見舞われています。航空業界だけでなく、ありとあらゆる業界が厳しい不況に苦しんでいる。それでも人々は、必死に今を耐え忍び、苦難に負けまいと歯を食いしばり、懸命に日々を過ごしているんです。それは、いつかきっと、この国にまた、誰もが笑顔になれるような明るい未来が来るはずだと信じてるからだ。そんな国民に寄り添い、支え、力になるのが、あなた方、政治家の務めでしょう? あなたはその使命を忘れ、国民から目をそらし、自分の利益だけを見つめてきた。謝ってください。この国で懸命に生きるすべての人に、心の底から詫びてください!」
半沢直樹

 コロナ禍で苦しむ今の日本の人たちの気持ちを代弁してくれたと視聴者の感動を呼んだ半沢の言葉。長いが全部引用させてもらった。原作の『銀翼のイカロス』が発売されたのは2014年だが、このセリフには間違いなく“今”の日本社会と政治を反映されている。「現実とフィクションは別もの」という言い方もあるが、よく出来たフィクションは現実と必ず地続きだ。だからこそ、人の胸を打つ。

「半沢! さらばだ」
中野渡謙

 辞職を決意した中野渡頭取が、半沢に真意を明かして退場する際の潔い言葉。最終回は中野渡頭取の見せ場がこれまでになく多かった。

「勝負だ、半沢あああああ! もし頭取になれなかったらお前がここで土下座! しかし、もし頭取になったら、私がここで土下座だ!」
「この世で一番嫌いなお前を! 全、人、生を賭けて、叩き潰す! 受けて立て! 受けて立てええええええ!」
「やれるもんなら、やって、みな! あばよおおおお!」
大和田暁

 『半沢直樹』がここまで盛り上がったのは、香川照之が演じた稀代のダークヒーロー、大和田暁の果たした役割がとてつもなく大きい。半沢を銀行に引き止め、自分は銀行の外に出て半沢を潰すとあらためて宣戦布告したラストシーンでも、これまでの名ゼリフ全部乗せで大いに盛り上げてみせた。

 これで『半沢直樹』シリーズは完結と見られているが、香川照之はTwitterで「いずれ春永に(いつかまたお会いできることを願っています)」と呟いた。原作を活かしつつ、その時代を反映させたパワフルな『半沢直樹』が観たいと思っている視聴者も多いはず。その日が来るのを楽しみに待ちたい。

■大山くまお
ライター・編集。名言、映画、ドラマ、アニメ、音楽などについて取材・執筆を行う。近著に『バンド臨終図巻 ビートルズからSMAPまで』(共著)。文春オンラインにて名言記事を連載中。Twitter

■配信情報
日曜劇場『半沢直樹』
Paraviにて全話配信中
出演:堺雅人、上戸彩、及川光博、片岡愛之助、賀来賢人、今田美桜、池田成志、山崎銀之丞、土田英生、戸次重幸、井上芳雄、南野陽子、古田新太、井川遥、尾上松也、市川猿之助、北大路欣也(特別出演)、香川照之、江口のりこ、筒井道隆、柄本明
演出:福澤克雄、田中健太、松木彩
原作:池井戸潤『ロスジェネの逆襲』『銀翼のイカロス』(ダイヤモンド社)、『半沢直樹3 ロスジェネの逆襲』『半沢直樹4 銀翼のイカロス』(講談社文庫)
脚本:丑尾健太郎ほか
プロデューサー:伊與田英徳、川嶋龍太郎、青山貴洋
製作著作:TBS
(c)TBS

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