『警視庁・捜査一課長』小ネタ投入でテレ朝刑事ものに新風? 病みつきになるその仕掛け

『警視庁・捜査一課長』テレ朝刑事ものに新風

 また、毎回、唐突にあらわれては大岩に助言を与える警視庁刑事部長の笹川健志(本田博太郎)のパートも話数を重ねるごとにどんどんおかしくなっており、途中からアベノマスクをつけて登場し、マスクを使った小芝居をしていた。

 凄いのは、あからさまに変なシーンを入れておきながら、物語はシリアスなトーンで進んでいくこと。刑事ドラマとしては、完全に様式化されているのだが、起こる事件の題材が「割引シール」、「実演販売士」、「消しゴムはんこ作家」と毎回どこかおかしい。お笑い芸人の塙が出演しているからか、ツッコミ不在のままボケだけが延々と連発されるコントを観ているような気持ちになってくるのだが、これが一度ハマると病みつきになる。

 宣伝用のネット番組も放送していたので、おそらくかなりSNSを意識しているとは思うのだが、TBS系の『MIU404』や『半沢直樹』の徹底したSNS戦略に比べると、いい具合にピントがズレていて、それが逆に平和な空気につながっているのが本作らしいと思う。

 他のドラマと比べてもフットワークが軽く、放送休止期間はテレワークで捜査会議をする場面を追加した傑作選を放送し、放送が再開されてからは登場人物がマスクをして捜査する場面や手洗いをする場面が挿入された。時事ネタをリアルタイムで取り込んでいく行為は、SNSで盛り上がるのだが、むしろこれは、昔のコントバラエティーで流行語を口にしたり、CMのパロディをおこなう感覚に近いと言える。

 今後もシリーズは続いていくと思うのだが、時事ネタを巧みに取り入れる絶妙なバランス感覚だけは保ち続けてほしい。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■放送情報
『警視庁・捜査一課長2020』
出演:内藤剛志、斉藤由貴、本田博太郎、矢野浩二、鈴木裕樹、塙宣之(ナイツ)、床嶋佳子、金田明夫
脚本:深沢正樹、田辺満
監督:池澤辰也、木川学、濱龍也
ゼネラルプロデューサー:関拓也(テレビ朝日)
プロデューサー:残間理央(テレビ朝日)、島田薫(東映)
制作:テレビ朝日、東映
(c)テレビ朝日
公式サイト:https://www.tv-asahi.co.jp/ichikacho2020/
公式Twitter:@sosaichikacho

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