『ちりとてちん』『平清盛』熱狂を生む藤本有紀脚本のすごさ 『カムカムエヴリバディ』への期待

熱狂を生む藤本有紀脚本のすごさ

 新型コロナウイルスの感染拡大により、放送が休止中の連続テレビ小説『エール』。出演者たちの副音声によって新たな視点で2回目の物語を楽しみつつも、「早く続きが観たい」というのが視聴者の本音だろう。そんなかつてない“朝ドラロス”とも言える状況の中、第103作目『おちょやん』、第104作目『おかえりモネ』に続く、第105作目のタイトルと作者が7月28日に発表された。

 2021年度後期、NHK大阪が製作を手がける第105作目のタイトルは『カムカムエヴリバディ』。昭和・平成・令和の時代に、ラジオ英語講座と共に歩んだ祖母、母、娘の3世代親子の姿が描かれる。脚本は、第77作目『ちりとてちん』を手がけた藤本有紀が担当する。注目点は本作が朝ドラ史上初の“3人ヒロイン”体制ということ。さらに、ヒロインは大規模なオーディションによって選ばれるという。今回の発表に「興奮した」と語るライターの田幸和歌子氏は、その理由を次のように語る。

「『藤本有紀さんが脚本を担当する』という情報に驚きとうれしさがありました。近年の朝ドラブームを再燃させた作品として、放送時間を変更した2010年の『ゲゲゲの女房』、2013年の『あまちゃん』が挙げられることが多いです。確かにその2作品が与えた影響は大きいのですが、2010年代の生まれ変わった朝ドラがあるのは、2000年代の低迷期と呼ばれた作品があるからなんです。『朝ドラはもう終わってもいいんじゃないか』という議論もされていた2000年代の中で、現在の作品に至るまでの下敷き、朝ドラとしての大きなチャレンジを行ったのが、2007年の『ちりとてちん』だと思っています。いわば、朝ドラ復活のきっかけを作った藤本さんが、生まれ変わった朝ドラを再び担当する、これほどうれしいことはありません」

 ヒロインを中心に物語が展開していく多くの朝ドラの中で、『ちりとてちん』はヒロイン・喜代美(貫地谷しほり)が、従来の主人公とは一線を画す“~じゃないほう”の残念キャラクターだった。そこに藤本脚本の凄さがあると田幸氏は続ける。

「貫地谷さんが演じた喜代美がこれまでにないまったく新しいヒロインでした。ヒロインが真ん中にいて、周囲の人物も誰もがヒロインが大好きで、ドジで明るくて、トラブルがあってもヒロインのおかげで解決していく……といったものが朝ドラ定番のヒロイン像でした。当然、“正”のヒロインに対して、“負”の面を持つキャラクターが姉妹や友人として登場してきたわけですが、喜代美はまさに“負”の部分を持っているキャラクターを主人公にした形なんです。喜代美はすぐに弱音を吐いて、後ろ向きな性格で。藤本さんの脚本は、人間の多面性を描くのがとにかく長けていて、喜代美を中心に登場人物全員が私たちの身近にいる存在に感じさせてくれるんです。同じく藤本さんが脚本を担当した大河ドラマ『平清盛』も人間関係の描き方が秀逸で本当に面白かったんです。ただ、『ちりとてちん』も『平清盛』も視聴率的にはかなり厳しい数字で……。でも、ファンの熱量はとにかくすごくて、放送終了後も掲示板に書き込みが絶えなかったですし、Twitterでも未だに話題にしている人が多い。藤本さんの脚本はこういった“熱狂”を生み出すのが特徴と言えます。脚本が作り込まれていることもあり、全話に重要なキーワードが散りばめられていること、情報量が多いこと、多くの登場人物がみんな“生きている”こと、長い長い伏線を最後に回収する快感など、観続けている方はどんどんのめり込めるんです。その分「途中参加ができない」「ながら観ができない」という側面もあり、それが視聴率が伸び悩んでしまった原因かもしれません。それでも、熱狂したファンを生んだこと、従来の朝ドラ、大河ドラマにない挑戦を藤本さんが行ったことは、ドラマ史の中でも大きな役割だったと思います」

 これまでも新しい試みを行ってきた藤本脚本だが、今回も朝ドラ史上初の“3人ヒロイン”に挑戦する。

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