『MIU404』伊吹藍は綾野剛の多面性を象徴するキャラクターに カメレオン俳優からの進化を辿る
綾野が演じる様々なキャラクターは、綾野の多面性を反映している。『日本で一番悪い奴ら』の諸星や映画『亜人』の佐藤、『Mother』(日本テレビ系)の浦上といった暴力性を帯びたキャラクターを、綾野の中の“悪魔”を増幅した役とするなら、ふとした瞬間に見せる笑顔は“天使”と言えるだろう。『コウノドリ』(TBS系)の主人公サクラの柔和なまなざしや、『空飛ぶ広報室』(TBS系)の空井には無邪気な少年の面影がのぞく。天使と悪魔の中間もある。映画『リップヴァンウィンクルの花嫁』では、誠実そうな見かけに反して、黒木華演じる主人公を罠に誘う男を演じきった。
『MIU404』の伊吹は、綾野の多面的な魅力が発揮される役だ。お年寄りの転倒を見た瞬間、頭に血が上ってあおり運転犯を猛追する伊吹は、志摩いわく「手綱をぶっちぎって走る野犬」。そうかと思えば、第4話で瀕死の青池透子(美村里江)を救おうと懸命に呼びかける。恩師の蒲郡(小日向文世)が「人を信じすぎる」と指摘する伊吹には、真っ直ぐすぎてコースアウトするような危険な香りが漂う。
相方の志摩も、伊吹とは別の危うさを持っている。第4話で暴力団員に銃を突きつけられ、銃口を指で押さえて「撃てば」と迫る。熱いハートを持つがリミッターの外れている伊吹と、理知的な反面、人としての倫理が壊れている志摩。善悪の境界上で揺れ、互いの存在がブレーキにもアクセルにもなる不格好なバディの片割れに、天使と悪魔の顔を備えた綾野は完璧にフィットする。
「カメレオン俳優」と形容されたのも今は昔。アスリートのような自己鍛錬によって、役者・綾野剛は進化を続けてきた。綾野のベストは最新作だ。『MIU404』を目撃してほしい。
■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。ブログ/Twitter
■放送情報
金曜ドラマ『MIU404』
TBS系にて、毎週金曜22:00~22:54放送
出演:綾野剛、星野源、岡田健史、橋本じゅん、黒川智花、渡邊圭祐、金井勇太、生瀬勝久、麻生久美子、黒川智花
脚本:野木亜紀子
演出:塚原あゆ子、竹村謙太郎、加藤尚樹
プロデュース:新井順子
音楽:得田真裕
製作:TBSスパークル、TBS
(c)TBS