ヴァリアント・コミックスはマーベル、DCに続くか? 『ブラッドショット』映画化の経緯を辿る

ヴァリアントはマーベル、DCに続くか?

 ヴィン・ディーゼル主演の『ブラッドショット』がイオンシネマ系で劇場公開を迎えました。体の中に特殊なナノマシンを移植され、不死身の体となった兵士が活躍するスーパーアクション! ヴィン・ディーゼル×『ロボコップ』×『ターミネーター』×『オール・ユー・ニード・イズ・キル』×『トータル・リコール』みたいなエンターテインメントです。映画の面白さもさることながら、これはコロナ禍で新作がほとんど公開されない状況において本当に嬉しいリリースでした。そしてアメコミ映画ファンにとっては、アメコミヒーローが映画館活動再開のための“露払い”になってくれたことも誇らしい。

 そう、『ブラッドショット』はアメコミ原作のヒーロー映画なのです。え、じゃあ『アベンジャーズ』や『スパイダーマン』と同じマーベル? それとも『バットマン』や『スーパーマン』と同じDC? いえマーベルでもDCでもない、ヴァリアント(バリアントと表記している方もいます。また会社としての名前はヴァリアント・エンターテインメント)という出版社のヒーローです。ヴァリアントはヒーローコミックを多く出版していて、マーベルやDC同様、それらのヒーローが同じ世界観の中にいるというヴァリアント・ユニバースを形成しています。現在、アメコミの出版社の中でこういうヒーロー・ユニバース路線を継続しているのは、マーベル、DC、そしてヴァリアントではないでしょうか。日本ではその中の1つ『クァンタム&ウッディ:世界最悪のスーパーヒーロー』という作品が翻訳されています。

 このブラッドショットはヴァリアントの中でも人気キャラの一人。したがって映画『ブラッドショット』を皮切りにマーベル・シネマティック・ユニバースのようなヴァリアント・シネマティック・ユニバースが始まるのではないか? それはYESでもありNOでもあります。どういうことかご説明しましょう。

 2008年にパラマウント映画がヴァリアント・コミックスの『ハービンジャ―(Harbinger)』という作品の映画化権を手に入れます。超能力を持った若者集団の戦いを描いた作品。2008年というのは『アイアンマン』『ダークナイト』が公開され、アメコミヒーロー映画の人気が加速した年。パラマウントとしてもシリーズ化が見込めるアメコミコンテンツが欲しかったのでしょう。内容的にうまくやれば『X-MEN』的な作品に仕上げられるわけですからね。

 そうした中、2012年にソニー・ピクチャーズが『ブラッドショット』の映画化権を手にいれたと発表。2012年のアメコミ映画事情は、マーベル原作映画ですと『X-MEN』の映画化権は20世紀フォックス、『スパイダーマン』の映画化権はソニー、そして『アイアンマン』『アベンジャーズ』などいわゆるマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)はディズニー……と3ライン存在していたので、ヴァリアント・コミックス原作映画も『ハービンジャー』はパラマウント、『ブラッドショット』はソニーと、2ラインにまたがると思われていました。ところが2015年にソニー・ピクチャーズがパラマウントから『ハービンジャー』の映画化権をゲット! まず『ブラッドショット』を作り、次に『ハービンジャー』を映画化。そして『ブラッドショット』と『ハービンジャ―』がクロスオーバーする『ハービンジャー・ウォーズ』なる作品を公開すると伝えられました。

 つまり、ソニーがヴァリアント・シネマティック・ユニバースを作るというわけです。さらにソニーは『ハービンジャー』に登場する、ぽっちゃり女性ヒーローを主人公にした『フェイス(FAITH)』も映画化すると発表。ソニー仕掛けのヴァリアント・シネマティック・ユニバース路線はもう確定と思われました。

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