『薄明の翼』は今後アニメ作品を考える上で重要な試みに 現実世界と陸続きのポケモンとの“共生”
子どもの頃、ポケモンが本当にいたらどんな生活になるのだろうと考えていた。空を飛ぶで隣町に移動し、暑い日は水ポケモンや氷ポケモンで涼み、ポケモンに乗って海辺を冒険する。カビゴンの食費はきっと大変だろうとか、ピカチュウに触る時はゴム手袋が必要かな、などと夢想したことがある人は、きっと多いのではないだろうか。そんなポケモンとの共生をリアルに描いたWEBアニメ『薄明の翼』が大きな話題を呼んでいる。今回は本作と、その制作を務めるスタジオコロリドの魅力について迫っていきたい。
『薄明の翼』は、原作である『ポケットモンスター ソード・シールド』の世界観を基に、YouTubeで毎月1話、5分ほどの作品を公開している。TVシリーズではサトシとピカチュウを中心とした冒険が描かれているが、そちらとは別の世界を舞台にしており、原作により密接なつながりを持った作品だ。1人の主人公の活躍や成長を描くものではなく、サイトウなどのジムリーダーや、ローズ委員長などのサブキャラクターを1話完結で掘り下げていき、その魅力を描き出す。
本作を鑑賞して驚かされるのは、“世界とともに生きるポケモン”の姿を丹念に描いている点だ。例えば第1話では病院が舞台となっているが、点滴や移動式のベットなどの現実にも存在する道具と共に、病院のスタッフとして働くポケモンの姿が描かれている。窓の外に見えるビル群や壁に貼られたポスター、雑誌やぬいぐるみなどの小物からは、現実世界と変わらない人々の営みが感じられるのだが、そのリアルな世界の中にポケモンが入り込んでいるのだ。だが、異常なものが紛れ込んでいるような感覚は一切なく、そこにいて当然というように描いている。この世界におけるポケモンは、現実世界におけるペットなどの概念を超え、共に暮らすパートナーであることを強く印象づけている。
また、映像の美しさ、その迫力も見どころの1つだ。その味わいが最も発揮されたシーンの1つが、第4話のルリナとミロカロスが共に泳ぎ回るシーンだろう。この話ではローズ委員長からルリナが「モデルとジムリーダーの仕事の両立が難しいのでは?」と問われてしまい、迷いを抱く姿が描かれる。しかし、作中でも語られるように、ルリナがミロカロスと共に水中を泳ぎ回る姿は、まるで空を飛ぶかのような快活な印象を与える。そして美しく強いミロカロスの姿にルリナを重ね合わせ、物語としてのカタルシスも生まれている。また海の中で泳ぐポケモンたちは幻想的であり、まるで竜宮城の中にいるかのような感覚を与えてくれる。
これらの映像を作り出した山下清悟監督は、30代前半と監督として若手であり、『ポケットモンスター 赤・緑』などを小学生の頃にリアルタイムで楽しんできた世代だ。本作を手がけた制作スタジオのスタジオコロリドは、デジタル作画を中心に制作するスタジオだ。今のアニメ制作は、作画の際に紙に書く旧来の作画方法と、デジタル画面に作画していくデジタル作画の両方が存在している状況だが、その中でデジタルであることにこだわりを持っているのがスタジオコロリド。『ペンギンハイウェイ』の石田祐康監督などの若手クリエイターが多く、若さ溢れるフレッシュで力強いデジタル作画の美しさや、特徴的なカメラワークなどからはスタジオコロリドの魅力が味わるのではないだろうか。