坂元裕二脚本『リモートドラマ Living』がファンタジーになった理由 制作統括・訓覇圭に聞く

『Living』制作統括が裏側を語る

この状況下でドラマを作る意義

―― 改めて、ファンタジーを作ろうと思われた理由について教えてください。

訓覇:この状況下で「何かフィクションとしての楽しさだったり素敵さだったりを見せることって、できないのかな」と思ったのがきっかけですね。たとえば、コロナ禍の状況を忠実に映像化すると、「一緒に住んでいる姉妹が、外に出られないから家に2人でいる姿を撮りました」というようなドキュメンタリーテイストのものになると思うのですが、それは個人的に観たいと思えなかったんです。ですので、進めていくうちに、どんどん“コロナ”から離れていきました。「よりフィクションとして何が観たいか」「こういう時に力強いものは何か?」と考えた結果、ファンタジーになりました。

――コロナを踏まえた近未来の物語というわけではないのですか?

訓覇:もっと感覚的なものですね。コロナを基準に物事を考えていること自体が、すごくコロナに支配されている感じがあり、そこからも自由になりたいという感じになってきました。企画の成り立ちを考えると当然なんですけれど、心がコロナに支配されている感じが少しでも解放されるようにしたいと考えました。

――今回、2011年3月11日の東日本大震災の時のことを思い出した人が多かったと思います。訓覇さんが手掛けた『あまちゃん』では、震災によって日常が変質していく姿が描かれていましたが、今回のコロナに対しては、どのようなことを思われましたか?

訓覇:フィクションの作り手としても、やっぱり、コロナってほんとに辛いなと思っています。コロナという題材をダイレクトに捉えて、そこで作品を作っていこうと必死で考えたのですが、どうしてもポジティブなイメージを思い浮かべることができませんでした。ドラマの作り手はみんな、これから作品を作っていく時に、コロナとどう向き合うかというのが問われることになり、難しい局面に立たされると思うのですが、僕が『Living』を作っている時に選んだのは結果的にファンタジーでした。コロナに対する距離感で言うと、ドキュメンタリー的なものからは、どんどん離れていったという感じですね。今は、コロナを比喩的にとらえて、ファンタジーや寓話として向き合うのがいいのかなと思っています。

共演者の関係性がにじんだ、今までとは違う画

――撮影はどのような感じでしたか?

訓覇:われわれスタッフと役者の接触は感染リスクがあるのでまったくなしにして、カメラのセッティングも役者さんにリモートでお願いしました。

――レイアウトの指定は、ある程度はできたんですね。

訓覇:シンプルにカメラ2台で寄りと引きの映像を押さえるぐらいですね。ただ、今までとは違う画が撮れたと思ったのは、本人同士が芝居をしながら相手を撮る場面です。YouTube的な感覚だと思うのですが、プロのカメラマンだったらその距離では撮れないという映像が撮れました。お互いの距離感がすごく出ている。

――『あまちゃん』でもビデオカメラで撮影される場面がとても印象的でした。

訓覇:そこにより家族感があるというか、アングルや撮り方に2人の関係が滲み出ているんですよね。マニアックですけれど、そこは新鮮でした(笑)。

―― CGもあればノンフィクション的でもあってファンタジーでもあるという。本当に坂元さんの世界観を中心にバラバラの要素が一つになっているんですね。

訓覇:初めて仕事をして、あらためて坂元さんは凄いと思いました。台詞の力、構成力、それを支える世界観、素晴らしいなあと。この短い期間で、違う設定のお話を4本書くことは大変だったと思います。全く4本違う話だし、小説家パートも合わせると5本分だから、短距離走を5本走っていただいたような感じですよね。

――最後に作品の見どころを教えてください。

訓覇:リモートドラマの限界に挑戦した作品で、この状況下で「何をやるべきか」と日々考えながら、作りました。間違いなく、この時期にしか作れなかった内容になっていると思います。今は渦中ですが、距離を置いて半年後、1年後に見返したら、その意味がより実感できるような気がしています。出演してくださった役者さんも含めて、この時期に作れたことが本当に貴重ですね。役者さん同士の「仲が良いなぁ」という空気感は、実際の家族でないと作れないものですし、今の気分が画にも充満しています。見たことのない肌触りを、是非楽しんでいただければと思います。何より坂元さんの作品が4作も観ることができるというのは、ドラマ好きからすると「幸せだなぁ」と感じます。

■放送情報
『リモートドラマ Living』
NHK総合にて放送

●第1夜:5月30日(土)23:30〜00:00
第1話 出演:広瀬アリス、広瀬すず
第2話 出演:永山瑛太、永山絢斗

●第2夜:6月6日(土)23:30〜00:00
第3話 出演:中尾明慶、仲里依紗
第4話 出演:青木崇高、優香(声)

●第1夜、第2夜(全話出演)
出演:阿部サダヲ、壇蜜(声)

NHKドラマ公式Twitter:https://twitter.com/nhk_dramas

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