『エール』浩二の苛立ちと悔しさ 佐久本宝が窪田正孝に不満を爆発させる

『エール』が描く兄弟の葛藤

 豊橋での演奏会を終え、裕一(窪田正孝)は福島へと帰ってきた。そんな裕一を、音(二階堂ふみ)との結婚を反対するまさ(菊池桃子)たちが待つ。NHKの連続テレビ小説『エール』が第6週の初日を迎え、浩二(佐久本宝)が兄への不満を爆発させる回となった。

 本来であれば、老舗呉服屋「喜多一」を継ぐはずだった長男の裕一。しかし、裕一は音楽の道を進むことを決意し、そのうえ文通相手と結婚しようとしていた。三郎(唐沢寿明)、まさ、茂兵衛(風間杜夫)が裕一の帰りを待つが、裕一は一向に現れず、浩二は「あいつが悪い」と怒りをあらわにした。まさが「裕一の留学は努力の結果だ」と口にしたときには、「努力? あれ、努力なの?」「努力って…もっと苦しいもんなんじゃねえの」と苦々しい声をあげていた。

 責任感が強い浩二は、経営が傾く「喜多一」を立て直そうと必死で努力している。家族のことを誰よりも強く思っているはずなのに、三郎たちの関心ごとはいつだって裕一に向いている。佐久本の表情からは、浩二の心に蓄積されてきた苛立ちと悔しさが滲み出る。

 音を「信頼できる唯一の人」と言った裕一に、浩二は呆れて笑い出し、「みんな兄さんの心配してんだよ」「父さんや母さんにこれだけ愛されても信用できねえってこと?」と兄の発言を咎める。浩二の口からは、兄に対する鬱憤がとめどなく溢れ出す。浩二はこうも言い放った。

「周りの愛を当たり前だと思うなよ!」

 浩二は兄の顔を睨みつけながら「俺…兄さんが嫌いだ」と言うが、その気持ちの奥には「もっと俺にも関心持ってよ」という思いがあった。思い返すと、浩二が高等学校に進学すると決心したとき、音楽に夢中で自分に大した関心を向けなかった裕一に、浩二は寂しげな表情を浮かべていた。佐久本が見せる演技は、浩二の憤りを視聴者にはっきり伝えるだけでなく、幼い頃から蓄積されてきた兄や家族への複雑な心情も伝わってくる。幼い頃に兄からもらったお土産を大切に持っていた浩二。「家族の幸せを第一に考えて下さい」と言って立ち去った浩二に、裕一は何を思ったのだろうか。

■片山香帆
1991年生まれ。東京都在住のライター兼絵描き。映画含む芸術が死ぬほど好き。大学時代は演劇に明け暮れていた。

■放送情報
連続テレビ小説『エール』
NHK総合にて、3月30日(月)より放送開始
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00〜11:15
※土曜は1週間を振り返り
出演:窪田正孝、二階堂ふみ、薬師丸ひろ子、菊池桃子、光石研、中村蒼、山崎育三郎、森山直太朗、佐久本宝、松井玲奈、森七菜、柴咲コウ、風間杜夫、唐沢寿明ほか
制作統括:土屋勝裕
プロデューサー:小西千栄子、小林泰子、土居美希
演出:吉田照幸、松園武大ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/yell/

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「国内ドラマシーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる