“禁欲”ルールのリアリティーショー『ザ・ジレンマ』 体当たり系ドキュメンタリーとしての楽しさ

体当たり系ドキュメンタリー『ザ・ジレンマ』

 これはリアリティーショーなので、必ず“やらかした”後に、自分たちの行為についてカメラの前で弁解する場面が設けられる。「どうかしてたんだよ」「もうしないよ」と言いつつ、すぐに失敗する。そして「でも、ここで我慢するのは逆に不健全じゃないか?」「体の相性だって大事じゃないか」とルール違反の言い訳を並べるのだが……こうした自己正当化を並べる2人を見るうち、実は私も多かれ少なかれ、似たようなことをしているなと考えてしまうのだ。性行為ではないが、たとえばブックオフでちょっと高い本を買うとき、「ここで買ったら今月のやりくりが困るぞ」と分かっていても、「後悔するくらいなら、ここで買っておこう」「ここで変に我慢するのは逆にダメ」そんなふうに言い訳が無限に湧いてきて、結局は買ってしまう。私はそういう経験をたくさんしてきた。性行為とブックオフは全然違うが、心理状態的には同じである。このため当初は『はだしのゲン』で言うところの町内会長に見えていた2人が、次第にムスビくらいの距離に思えてくる。「覚醒剤はやめろ」と心配するような感じで、「ち、ちがう。これはただのスキンシップじゃ」とイチャつく2人に、「フランチェスカ、うそをつけっ」と応援してしまっていた。実際、最後の最後、心なしかハリーからアホの擬人化オーラが消えていたときなんて、ちょっと感動しましたからね。

 そんなわけで、本作はリアリティーショーとしては失敗作だろう。何しろほとんど全編に渡って筋トレしかしていない人もいるのだから。しかし、自分をコントロールできない人にとって、これはけっこう親近感の湧く内容かもしれない。それに全部で8話しかないし、いきなり「日本の文化・Shibariで精神的に繋がろう」とSMの縛り講座が始まったり、謎の展開もある。グダグダな深夜バラエティを見ているような面白さと、ちょっとだけ身につまされる感覚。恋愛的な駆け引き一切なし、一種の体当たり系ドキュメンタリーとして楽しめた。とりあえず、私の心の中の『はだしのゲン』が「そうか、お前らもお前らで大変なんじゃのう……」と優しい目をして、振り上げた凶器のゲタを地に置いたのは事実である。

■加藤よしき
昼間は会社員、夜は映画ライター。「リアルサウンド」「映画秘宝」本誌やムックに寄稿し
ています。最近、会社に居場所がありません。Twitter

■配信情報
『ザ・ジレンマ:もうガマンできない?!』
Netflixにて、独占配信中
配信サイト:https://www.netflix.com/title/80241027

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