『タイラー・レイク -命の奪還-』はアクション映画のノウハウ満載 期待するもの全てある凄まじさ
哀しい過去を忘れるため、がむしゃらに戦える“死地”を求め、誰もが断る任務を受ける凄腕の傭兵タイラー・レイク(クリス・ヘムズワース)。そんな荒みきった彼のところに、いつもにまして危険な任務が舞い込む。「インドの麻薬王の息子が、バングラデシュの犯罪組織に拉致された。バングラデシュに突入して、誘拐犯から息子を奪還せよ」。危険すぎる任務だが、タイラーは速攻でバングラデシュへ。誘拐犯の拠点に乗り込むと、秒でアジトを壊滅させる。しかし、ただ手をこまねている犯罪組織ではない。莫大な財産を持っている彼らは、部下のギャングたちはもちろん、警察にも命令する。「街中の銃で、あの男を狙え!」。さらに、インドの麻薬王の暗殺者もバングラデシュに乗り込んできた。街中が敵に回り、凄腕暗殺者が迫ってくる。最悪の状況下で、果たしてタイラーは少年を救うことができるのか?
先日からNetflixで配信が始まった『タイラー・レイク -命の奪還-』(2020年)は、凄まじい映画だ。これは観てもらうのが一番イイと思う。何はなくともアクションが凄すぎる。そしてアクションの凄まじさというのは、百聞は一見に如かず、いくら文字で書いても伝わらないだろう。
本作は極めてシンプルなプロットである。凄腕の傭兵が異国の地に潜入して、少年を守りながら、襲い来る敵を次々と撃破していく。ただしスケールは大きく、半面、構成は極めてタイト。ほんの数時間の出来事を描いていて、少しの休憩は挟むものの、基本的には2時間ずっと戦いっぱなしだ。『ブラックホーク・ダウン』(2001年)や『13時間 ベンガジの秘密の兵士』(2016年)のような印象を受ける。そして、その「戦い」のアクションが、ハリウッド映画の中でも突出したレベルなのだ。銃撃戦はもちろん、特に近距離での格闘が凄まじい。手数は少ないが、「敵を無力化する」「殺す」ための最短距離で構成されており、数手で敵を無力化する姿は、まるで『ぷよぷよ』で連鎖が決まったときのような快感がある。ちなみに本作のプロデューサーは『アベンジャーズ』シリーズを手がけたルッソ兄弟(弟のジョー・ルッソは脚本にも参加)、そして監督のサム・ハーグレイヴはスタントマン/スタント・コーディネーイターとしてルッソ兄弟と組んできた人物だ。ハーグレイヴはキャプテン・アメリカ(クリス・エヴァンス)のスタントダブルも担当しており、実際に“動ける”人である。MCU系以外にも、格闘アクションの本場・中国で『戦狼 ウルフ・オブ・ウォー』(2017年)や、ベン・アフレック主演の『ザ・コンサルタント』(2016年)でもアクション系の裏方として関わっている。
本作には、そんなハーグレイヴがこれまで培ってきたアクション映画のノウハウが満載だ。敵を瞬殺するアクションは「数学的に見て最速の方法で相手を倒す」をコンセプトに作られた『ザ・コンサルタント』に近い(参考:映画『ザ・コンサルタント』のギャビン・オコナー監督にインタビュー。自閉症スペクトラムの会計士はなぜシラットを使うのか?|ギズモード・ジャパン)。ちなみに『ザ・コンサルタント』はシラットという格闘技を使っていて、これは『ザ・レイド』(2011年)という、これまたアクション映画の金字塔で使われていた格闘技だ(このためか、本作には『ザ・レイド』っぽさもある)。また中盤の超絶疑似ワンカットは、『戦狼』の冒頭を彷彿とさせるし、銃撃戦と素手の格闘がシームレスに繋がる感じは、MCUのアクションのレベルを1段階上げた『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』(2014年)のようだ。……と書いてはみたが、やはりアクションについては、もうとにかく観てほしいとしか言いようがない。
またアクションだけではなく、「父と子」をテーマに据えたドラマもレベルが高い。本作には何組かの父子が出てくる。主人公であるタイラー・レイクと、すでにこの世を去った彼の息子。麻薬王と、その息子。犯罪組織のボスと、彼に一種の父性を感じている不良少年。こうした三者三様の父と子の物語が、本作をアクションシーンの展覧会ではなく、ドラマとしてグッと深いものにしている。あまり多くを語らないのもいい。最近はコメディの印象が強かったクリス・ヘムズワースだが、今回は徹頭徹尾、寡黙でタフな、しかし陰のある男を好演している。常に陽性の雰囲気をまとっている彼からは想像できない、俳優として新たな魅力を見せたといっていいだろう。