『麒麟がくる』はシェイクスピア劇のような父子の愛憎劇に 織田・斎藤家の親子関係を読み解く

『麒麟がくる』父子の愛憎劇

 一方の本木雅弘演じる義父・道三もまた、一筋縄ではいかない親子関係を抱えている。以前は土岐頼芸(尾見としのり)の愛妾でもあった道三の側室・深芳野の息子である高政は、自分が道三の子供ではなく頼芸の子供なのではないかという疑念を募らせている。第13回において慕っていた頼芸を道三の謀略で失い、怒りのあまり父親に食って掛かる高政と、それに応じる道三の迫力のあるやりとり。「言葉は刃物ぞ」という台詞もさることながら、本木・伊藤2人の男優の魅力、さらには黒澤和子による衣装デザインの華やかさ、鮮やかさもあいまって、時代劇というより、親子の愛憎渦巻くシェイクスピア劇でも観ているかのようであった。

 恐らく道三は、帰蝶の目論見通り娘婿・信長を気に入り、可愛がることになるのだろう。そうすることで、光秀と比べられることさえ不服そうだった高政はより一層父親への憎しみを募らせることになる。そして親に愛されていないという寂しさを募らせて生きてきた信長もまた、エキセントリックなマムシ・道三と出会うことによって心を躍らせることになるのだろうか。不遇な者同士の心躍る運命の出会いは、またさらなる不遇と屈折した憎しみを生み、運命の歯車が大きく回る音がする。男たちの純粋はどこに向かうのか。史実が織り成す濃密な戦国愛憎劇は、まだまだ幕を開けたばかりである。

■藤原奈緒
1992年生まれ。大分県在住。学生時代の寺山修司研究がきっかけで、休日はテレビドラマに映画、本に溺れ、ライター業に勤しむ。日中は書店員。「映画芸術」などに寄稿。

■放送情報
大河ドラマ『麒麟がくる』
NHK総合にて、毎週日曜20:00〜放送
BSプレミアムにて、毎週日曜18:00〜放送
BS4Kにて、毎週日曜9:00〜放送
主演:長谷川博己
作:池端俊策
語り:市川海老蔵
音楽:ジョン・グラム
制作統括:落合将、藤並英樹
プロデューサー:中野亮平
演出:大原拓、一色隆司、佐々木善春、深川貴志
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/kirin/
公式Twitter:@nhk_kirin

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「国内ドラマシーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる