『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒』はなぜオーソドックスな内容になったのか?

『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒』の先進性

 本作『ハーレイ・クインの華麗な覚醒 BIRDS OF PREY』は、過去のエクスプロイテーションを思い起こさせる内容だが、そこに欠けているのが、セックスの要素である。つまり本作は、アウトローの女性が活躍する犯罪映画の定型をなぞりながら、女性の性を搾取することなしに、最初から最後まで人間として描いているのだ。彼女たちのファッションも、奇抜で印象的ではあるものの、決してセクシャルな視線を集めようとはしていないように感じられる。

 過激な描写を貫くことだけが“先進性”ではないだろう。ここでは、登場する女性の人格を守り、セクシャルな意味での過激さを存在させないことで、女性にとって、より楽しめる先進性を獲得しているのである。これが画期的なことでなくて何であろうか。

 同じDC映画の『ワンダーウーマン』(2017年)、マーベル・スタジオ映画の『キャプテン・マーベル』(2019年)は、ともに本作のキャシー・ヤン監督同様に、女性の監督によって撮られた作品である。そしてまた、これらの作品は、意外なほどヒーロー映画としてオーソドックスな展開に感じられる作品でもある。

 裏を返せば、それはいままで女性がヒーローとなる作品において、その存在がいかに変則的に扱われていたか、また、搾取される存在であったのかを示しているように思える。つまり、女性ヒーローをいま最も先進的に描くには、かつての男性ヒーロー映画と同じように、あえてオーソドックスな内容にするべきなのだ。アメリカのヒーロー映画は、現在そういうフェーズにあるといえよう。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■公開情報
『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』
全国公開中
出演:マーゴット・ロビー、メアリー・エリザベス・ウィンステッド、ロージー・ペレス、ジャーニー・スモレット=ベル、ユアン・マクレガー
監督:キャシー・ヤン
プロデューサー:マーゴット・ロビー
配給:ワーナー・ブラザース映画
(c)2020 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved. BIRDS OF PREY and all related characters and indicia c&TM DC Comics.
公式サイト:http://wwws.warnerbros.co.jp/harleyquinn-movie/

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