“週6日”の朝ドラ『スカーレット』が残したもの 行間を読ませた小説のような味わい
『スカーレット』には「ここ、見せ場です!」という、ズームアップの瞬間がなく、引いた視点でずっと舞台を観ているような印象がある。観ている側が勝手に好きなところにズームして楽しむような感じが。忙しい朝は、インスタント食品で、数秒で元気をチャージしたいとか、手っ取り早く趣旨を理解したいとか思うせっかちな人には、ややのんびり感じるかもしれないが、味噌汁の出汁をとるところからはじめて、珈琲も豆から入れるような、朝ごはんをしっかり食べる派には『スカーレット』は見応えのあるドラマだった(朝ごはんは例えです、念のため)。
そんなふうにずいぶんじっくり描いているほうだと思う『スカーレット』でさえ、まだ書いてあったがカットされていたということもあるようで(脚本家・水橋文美江がInstagramでカットされたところを紹介していた)、カットされた部分も描いていたら、週7日にしないといけなかったかもしれない。
1時間×週1回×10話ほどの通常の連続ドラマでは描けない、朝ドラならではのプラスアルファの表現の魅力が、週5日放送になることによって今後損なわれてしまうとしたら、いささか残念に思うが、代わりにまた新しい表現も生まれるかもしれないのでそれはそれで楽しみだ。
ちなみに、武志が旅立った年は昭和62年。これは現実の歴史でいうとその2年後に「昭和」が終わる先触れがあった年である。この年の春、昭和天皇の体調が悪くなり手術が行われた。喜美子の作品として器を提供した信楽の陶芸家・神山清子も、息子を白血病で亡くしているが、それはこの年ではない。そう思うと、令和元年にはじまり、新たな時代へと向かっていく過渡期に放送された『スカーレット』は、昭和や平成のスタンダードとの惜別と、新たなフェーズへの希望を込めた作品になったと感じる。
■木俣冬
テレビドラマ、映画、演劇などエンタメ系ライター。単著に『みんなの朝ドラ』(講談社新書)、『ケイゾク、SPEC、カイドク』(ヴィレッジブックス)、『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』(キネマ旬報社)、ノベライズ「連続テレビ小説なつぞら 上」(脚本:大森寿美男 NHK出版)、「小説嵐電」(脚本:鈴木卓爾、浅利宏 宮帯出版社)、「コンフィデンスマンJP」(脚本:古沢良太 扶桑社文庫)など、構成した本に「蜷川幸雄 身体的物語論』(徳間書店)などがある。
■作品情報
NHK連続テレビ小説『スカーレット』
2019年9月30日(月)〜2020年3月28日(土)(全150回)
出演:戸田恵梨香、富田靖子、大島優子、林遣都、松下洸平、黒島結菜、伊藤健太郎、福田麻由子、マギー、財前直見ほか
脚本:水橋文美江
制作統括:内田ゆき
プロデューサー:長谷知記、葛西勇也
演出:中島由貴、佐藤譲、鈴木航ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/scarlet/