鈴木亮平が悲劇の連鎖を止める 『テセウスの船』原作を改変し描いた“変わらないもの”の正体

『テセウスの船』悲劇の連鎖を止めた鈴木亮平

 音臼小事件の「その後」を描いたドラマ版『テセウスの船』の原作との最大の違いは、共犯者の正体だ。原作では、大人になったみきお(安藤政信)が過去にタイムスリップして子どものみきおに力を貸すというストーリーだが、ドラマでは正志が共犯者であり、動機から見ればむしろ正志が主犯とも言える。

 正志と心はコインの裏表のようなキャラクターだ。加害者家族として父の冤罪を晴らそうとする心も、一歩間違えれば正志のようになっていた可能性は否定できない。また佐野にしても、家族を守るために自身を正当化することも十分にできたはずだ。

 しかし、佐野はすんでのところで正志への反撃を思いとどまる。それは、自分を信じてくれた心を裏切れないという思いからだった。佐野が正志に投げかけた「大事な家族を救えなかったって、お前はずっと苦しんできたんだな」という言葉は、互いを許し、悲劇の連鎖を断ち切るという決意でもあった。

 佐野が有罪にならなかった未来で、心は過去にタイムスリップすることはない。31年前に出会った心が未来から来た息子であることを知っているのは佐野だけ。目の前にいる心は、31年前には和子(榮倉奈々)のお腹の中にいたもう一人の心だ。あったかもしれないもう一つの未来に思いをはせる「テセウスの船」のパラドックスは、時がたっても変わらないものがあることを教えてくれる。

■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。ブログtwitter

■放送情報
日曜劇場『テセウスの船』
TBS系にて、毎週日曜21:00~21:54放送
出演:竹内涼真、榮倉奈々、安藤政信、貫地谷しほり、芦名星、竜星涼、せいや(霜降り明星)、今野浩喜、白鳥玉季、番家天嵩、上野樹里(特別出演)、ユースケ・サンタマリア、笹野高史、六平直政、麻生祐未、鈴木亮平
原作:東元俊哉『テセウスの船』(講談社モーニング刊)
脚本:高橋麻紀
演出:石井康晴、松木彩、山室大輔
プロデューサー:渡辺良介、八木亜未
製作:大映テレビ、TBS
(c)TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/theseusnofune/

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