菊地成孔×森直人が語る、映画批評のスタンス 「湧いてくる悪文のリズムには忠実でありたい」

菊地成孔×森直人が語る、映画批評のスタンス

地下から地上に向かう映画がトレンドに

森:最後に一つだけお話したいのですが、明日はアカデミー賞の授賞式ですよね(編集部注:本トークショーは2月9日に行われた)。

菊地:いろんな賞があるなかで、一番楽しいのはやっぱりアカデミー賞です。競馬新聞を持つおっさんと一緒で、情報を見て馬体が重いとか言って楽しむわけだから。今年はポン・ジュノ監督『パラサイト 半地下の家族』がノミネートされていますが、獲ると思いますか? 

森:獲って欲しいですけどね。もし獲ったら、映画界の経済の流れが変わるくらい大きいことだと思いますよ(編集部注:『パラサイト 半地下の家族』は作品賞、監督賞、脚本賞、国際長編映画賞の4部門を受賞)。

『パラサイト 半地下の家族』(c)2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

菊地:本当に大きい。前の本のテーマですが、大韓民国ではソウル市内に米軍基地がある。ソウルは日本で言うと東京都です。あまり言われないですが、ベトナム戦争のときも、韓国は米国と一緒に手を取って戦いました。言っちゃあ悪いけど、米軍に対しキッシングアスしてきたわけじゃないですか。それにも関わらず、北東アジアのカルチャーという意味では、長い間、日本の方が上だったんですよ。フランスのシネフィルは小津(安二郎)が好きだとか、北東アジアでBillboard Hot 100の1位を最初に獲ったのは坂本九さんだとかね。でも、BTSが出てきて、欧米でも韓国のカルチャーがゆっくり上がってきた。『ブラックパンサー』を観ると、今は漢字よりハングルの方が魅力的だ、というようにマーベルも移っているのがわかります。カルチャーは韓国の方に時間をかけて動いています。そこで、『パラサイト 半地下の家族』がアカデミー賞を獲ったりした日には、映画という総合カルチャーで、一個ハンコが押されるわけです。

森 本当にそう思います。

菊地:日本映画も頑張って欲しいですけどね。大韓民国が映画のクオリティも音楽のクオリティも上がっている。でも、追い越されたから悔しいと言ってもしょうがないです。ポン・ジュノがあんなに面白かったので。『パラサイト 半地下の家族』は絶対観てくださいね。流行りの垂直映画なので。「映画愛好家は、空=宇宙=天空に飽きたのである」ってコメントでも書きました。

森 名コメントを(笑)。

菊地:ジブリとかで空を飛ぶのに飽きたから、映画は地下に潜っていますよね。『万引き家族』も『アス』も『サスペリア』も地下の映画ですよね。だから、地下から地上に向いている映画が、ここのところの群発的にトレンドに来ています。というところで『パラサイト 半地下の家族』が獲るのか、明日の授賞式が楽しみです。(菊地後註:『欧米休憩タイム』に続く『映画関税撤廃』の<意識的なテーマ>については、当記事並びに、拙著をお読み頂ければ、自ずとご理解頂けると思う。そしてその、<無意識的なテーマ>こそが「ポン・ジュノの、異様なまでの受賞数」であろう)

■発売情報
『菊地成孔の映画関税撤廃』
著者:菊地成孔
発売日:2020年2月5日(水)
価格:本体2200円+税
発行・発売:blueprint
四六判/336頁
ISBN:978-4-909852-06-9 C0074
取扱:全国書店/Amazonにて発売中

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