戸田恵梨香、年齢を重ねていく佇まいのすごみ 異色作な朝ドラ『スカーレット』を走らせ続けた動力

戸田恵梨香、年齢を重ねていく佇まいのすごみ

 特に戸田恵梨香のすごみが際立ってきたのは、陶芸家として成功して以降、年齢を重ねていく姿においてだ。

 もともと落ち着いた声が、年齢を重ねるごとにさらに低音化し、その一方で、交流を重ねてきた相手との間の会話はどんどん無駄なく、テンポアップしている。本人の年齢の変化だけでなく、関係性の変化も、喜美子の声のトーンと会話のスピードによって感じられるのだ。

『スカーレット』第111回(写真提供=NHK)

 朝ドラでは『おしん』『カーネーション』のように、子役、本役、晩年をそれぞれ別の女優がリレー方式で演じることもあるが、『スカーレット』の場合は、子役は別として、若い頃よりむしろ晩年の見せ方に比重が置かれている気がする。

 女性の半生記や一代記を描くことの多い朝ドラでは、ヒロインが老ける・老けない問題がよく俎上にのる。「いつまでもヒロインだけ若い」と批判されることもあるし、若い顔にほどこしたシワなどの加齢メイクが変に浮いてしまうこともある。

 年齢の変化を体型変化で見せるパターンもある。映画などでは実力派女優がわざと体重を増やし、中年体型に見せる工夫などをするケースがあるし、『ひよっこ』の有村架純の場合は、あらかじめ体重を増やしておいたところからスタート→都会に出て、大人になってほっそりするという変化を見せていた。

 しかし、戸田恵梨香の場合、「陶芸には体力が要るから」という理由で事前に体重を増やしたそうだが、喜美子を見ていると、若い頃から今まで細いままだ。にもかかわらず、細い体でも、特に後ろ姿に、加齢がにじんでいる。

 工房に一人佇むとき。居間で一人、食事をするとき。立ち姿や座り姿の腰や肩の落とし方に、じんわりと年齢が見える。また、やや薄くなった眉毛や、以前よりやや小さく見える目、口角のやや下がった笑い方に、着実に中年っぽさが感じられる。

 「加齢」とは齢を加えると書くだけに、多くの場合は、シワを加えたり、肉付きを加えたりする表現になるものなのに、戸田の場合はむしろ若い頃に自然と持っていた様々なものを手放し、削ぎ落としていっているように見える。

『スカーレット』第139回(写真提供=NHK)

 見た目にも、人とのやりとりにも、装飾やでっぱりを削ぎ落として、つるりと丸くなっていっているように見える中年の姿。炎の燃やし方も、若い頃とはまた異なり、そこには若い頃とはまた違った凛とした美しさが感じられる。

 朝ドラヒロインの物語の中での生き方や、周囲を巻き込むエネルギーの燃やし方、年齢の重ね方を新たに提示してくれた『スカーレット』。戸田恵梨香の好演によって、今後の朝ドラヒロインのハードルは大きく上がってしまったかもしれない。

■田幸和歌子
出版社、広告制作会社を経てフリーランスのライターに。主な著書に『KinKiKids おわりなき道』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)などがある。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『スカーレット』
NHK総合にて、2019年9月30日(月)〜2020年3月放送予定
出演:戸田恵梨香、富田靖子、大島優子、松下洸平、福田麻由子 ほか
脚本:水橋文美江
制作統括:内田ゆき
プロデューサー:長谷知記
演出:中島由貴、佐藤譲
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/scarlet/

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