戸田恵梨香の表情が曇っていく 『スカーレット』子を大事に思うが故の複雑さ

『スカーレット』子を大事に思う気持ち

 喜美子(戸田恵梨香)が買い物から帰ってくると、八郎(松下洸平)が待っていた。喜美子と八郎は、武志(伊藤健太郎)が次世代展の応募に間に合ったこと、その最中体調を崩したらしいということを話す。何気ない描写だが、息子を心配する父と母の思いが伝わってくる。そんな二人のもとに百合子(福田麻由子)が桃(岡本望来)とともにやってきた。

 連続テレビ小説『スカーレット』(NHK)第130話は、百合子の本音を通じて、子を大事に思う親の心情が描かれる回となった。

 「桜(東未結)ちゃんは? 来ぃひんの?」と問われた百合子は、「出かけに叱ったらすねてしもた」と答えた。桜がピアノをやめたいと言ったので叱ったようだ。百合子は、習い事を途中で放り出すのはよくない、いやいややるのは良くないと話す。しかし喜美子は、そんな百合子に「自分からやりたい言うんやったらな?」と優しく諭した。言葉に詰まる百合子に「学習塾にも行かせるようなこと聞いたで」と喜美子が言葉をかけると、百合子は姉の前で本音をこぼす。

「うちかて習いたかった。学習塾行って、短大受験もしたかった。うちができへんかったこと、全部させてあげたい」

 きっと百合子は、喜美子に諭される前から、娘ではなく自分の気持ちを優先していたことに気づいていたはずだ。しかし、今まで押し殺してきた自分の気持ちに耐えられなくなってしまったのだろう。

 喜美子はそんな百合子の複雑な心境を察し、やわらかな口調で「子育て頑張ってたら大事なもんがどんどん増えてくなあ」と声をかけた。「分かってるよ……。そんなん言われんでも……何が大事か……」と返す百合子だが、姉のやさしい言葉は胸のつかえを取り除いたようだ。百合子は、信作(林遣都)に連れられてやってきた桜に「やめたかったらやめてええんよ。桜の気持ちが大事やからな?」と伝えた。

 子を大事に思うあまり、複雑な気持ちになるのは喜美子も同じだ。次の日、突然帰ってきた武志は「大きな病院で検査する必要がある」と喜美子に打ち明ける。体調を崩し、何度も病院に通っていたことを初めて知った喜美子は、息子を心配するあまり声を荒げてしまった。武志に「怒るなや……」と言われ心を落ち着けた様子だったが、その表情は硬い。県立病院への紹介書を見つめる喜美子の顔は、今にも泣きそうに見えた。息子の気持ちを大事にしたくとも、不安に押しつぶされそうになる親の顔だった。

■片山香帆
1991年生まれ。東京都在住のライター兼絵描き。映画含む芸術が死ぬほど好き。大学時代は演劇に明け暮れていた。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『スカーレット』
NHK総合にて、2019年9月30日(月)〜2020年3月放送予定
出演:戸田恵梨香、富田靖子、大島優子、松下洸平、福田麻由子 ほか
脚本:水橋文美江
制作統括:内田ゆき
プロデューサー:長谷知記
演出:中島由貴、佐藤譲
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/scarlet/

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