戸田恵梨香×松下洸平の印象的な“2つの反復” 『スカーレット』が描き続ける家族の物語
そんな不思議なアンリの引力に引き摺られてか、武志の健気な思いが通じてか、離婚した夫・八郎も再び川原家に引き寄せられる。第119話、第120話はまさに、止まっていた時間が動き出す回だった。八郎と喜美子は2つの行動の反復によって、「新しい関係」を築こうとする。
1つは、喜美子による、かつて丸熊陶業で八郎に積極的にアプローチしていた時の「喜美子って呼んで」の反復。
そしてもう1つが、かつての陶芸への“恋心”を取り戻すために「今は休んでいる」八郎が、第83話で喜美子が言った「前に進むいうことは、作ったもん壊しながらいくということ」という言葉に従い、最初の作品を壊すことを選んだことだ。以前喜美子がその言葉を発した時、八郎は、「僕と喜美子はちゃうで。違う人間や」と言ってそれを拒んだ。喜美子の「今は休んだほうがいい」という提案を聞き入れることができなかった八郎が、何年もの時を経て、互いに「違う人間」として違う場所でそれぞれに生きた後で、ようやく喜美子のかつての提案を受け入れ、前に進もうとしている。
そこに、父親が当時恋人だった母親のことを思い作った作品、母親が父親のためを思い応募したものの、受賞に至らなかった作品と、それぞれのエピソードと各時期の父と母の互いへの思いが詰まった「次世代展」に応募しようとする息子・武志の物語が加わる。「家族は離れていても家族」というアンリの言葉そのまま、別々に暮らしていたのが嘘のように、父親と母親の思いと生き方を見事に引き継いだ武志が、新たに「胸が熱くなる瞬間」に出会おうとしている。
今週は、フカ先生(イッセー尾形)の弟子“二番さん”を演じた三谷昌登が脚本を手がけるという特別編「スペシャル・サニーデイ」の信作と百合子(福田麻由子)の主役週である。『スカーレット』における揺るがぬ癒し系、愛すべき「おもしろおじさん」となった信作メインの物語が楽しみでしかたがないが、その先の喜美子の人生になにが広がっているのかが気になってしかたがない。「誰かを思うことで自分の人生も豊かになる」というアンリの別れ際の教えが、今後の喜美子にどんな影響を与えるのか。互いを思いやりつつ、寄りかかりすぎず、それぞれの道を進もうとする、武志や八郎、そして喜美子、それぞれの人生は最後の1カ月、どう進んでいくのか。
■藤原奈緒
1992年生まれ。大分県在住の書店員。「映画芸術」などに寄稿。
■放送情報
NHK連続テレビ小説『スカーレット』
NHK総合にて、2019年9月30日(月)〜2020年3月放送予定
出演:戸田恵梨香、北村一輝、富田靖子、桜庭ななみ、福田麻由子、佐藤隆太、大島優子、林遣都、財前直見、マギー
水野美紀、溝端淳平、木本武宏、羽野晶紀、三林京子、西川貴教、松下洸平、イッセー尾形 ほか
脚本:水橋文美江
制作統括:内田ゆき
プロデューサー:長谷知記、葛西勇也
演出:中島由貴、佐藤譲、鈴木航ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/scarlet/