戸田恵梨香×松下洸平の印象的な“2つの反復” 『スカーレット』が描き続ける家族の物語

『スカーレット』印象的な“2つの反復”

 一度形を作り、失敗したら、また丸めてイチから作り直す。八郎(松下洸平)が喜美子(戸田恵梨香)に、喜美子が三津(黒島結菜)に陶芸を教える時に一度壊してやり直させたように、さらには武志(伊藤健太郎)が喜美子に言われなくても率先して行ったように、うまくいかなければ、彼らは一度壊すことで次に進むという行動を繰り返してきた。

 『スカーレット』(NHK総合)のオープニング映像において、回るろくろの上で、失っては新しい何かに出会う少女の人生が描かれているように。喜美子は、かつては賑やかだった川原家の家屋に佇み、死や別離、様々な事情で去っていく人々を見送り、照子(大島優子)と信作(林遣都)という心強い幼なじみたちに賑やかに支えられ、理想的な子供と言える武志と心地よい距離感で関わりながら、今、静かに1人の人生を生きている。そして、そんな喜美子の元に、謎の女性・小池アンリ(烏丸せつこ)と、一度は去っていった八郎が現われ、一度は互いに壊した「家族の物語」を再び丸め、作り直すことで、再び新しい物語が始まろうとしている。

 『スカーレット』は、変わらない日常を繰り返し描くことで人生を描くドラマだ。大胆な省略を厭わず、俳優たちの優れた、抑制された演技から零れ出る、リアリティのある心情描写を何より大切にする。セットは少なく、喜美子が生活する川原家の家屋がメインである。

 そんな比較的落ち着いた色合いの『スカーレット』において、喜美子や八郎に新しい何かを授けて去っていく、完全に他の登場人物たちと色が合っていない、型破りなキャラクターが存在する。1人は、「自由は不自由や!」のジョージ富士川(西川貴教)。そして、今回登場の、陶器の「音楽」を聞く女、小池アンリである。

 彼らが『スカーレット』において担っている役割は、喜美子の人生に変化をもたらすことだ。常に何かを背負って生きていかざるを得ない、信楽という土地、川原家という家屋から解き放たれることを望まない、自分の人生を豊かにするための時間を求めない喜美子の元に、まるで「芸術」そのものが派手な格好をしてやってきたかのように出現し、刺激を与える。

 そして、小池アンリはもう一つの役割を持っている。それは喜美子と同じく「仕事」に生きる道を選んだちや子(水野美紀)や、陶芸家への夢を師匠である八郎への許されぬ恋心に阻まれ苦しみ去っていった三津といった、恋と仕事の狭間でそれぞれの選択を迫られた女性たちのうちの一人として、当時の「女の生き方」の一例を呈示する役割である。

 アンリと喜美子は似ている。喜美子と八郎の離婚理由が事実と噂話で大きく食い違っていたように、「スキャンダル女優」と噂されるアンリの口から語られる真相は、噂話とは全く異なるものだった。2人の違いは、同じ状況において、「仕事を選んだか、大事な人を選んだか」の違いである。アンリの人生は喜美子の選ばなかった人生だ。そしてアンリは、誰もがやがて一人になるということ、一人になったとしても家族は繋がっているのだということを、喜美子に教えて去っていく。

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