『伝説のお母さん』“モブ夫”に非難殺到! 憎めない愛嬌を漂わせる玉置玲央の表現の幅

『伝説のお母さん』“モブ夫”演じる玉置玲央

 というのも、玉置玲央といえば、劇団「柿喰う客」に所属し、劇団ユニット「カスガイ」を主宰する俳優・演出家で、もともとは舞台を中心に活躍してきた人だからだ。

 本当のところ、これまでも朝ドラ『花子とアン』(NHK総合)で帝大生・宮本(中島歩)の友人・田中役や、『真田丸』(NHK総合)の織田信忠など、多数のテレビドラマで彼の顔は見てきていた。しかし、色白美肌+切れ長の目で、低体温そうな整った塩顔は、それぞれ「玉置玲央」という俳優の名前には結びついていなかった。

 彼が映像の世界で一躍注目されたきっけかは、大杉漣の最後の主演映画で、エグゼクティブプロデューサーも務めた『教誨師』。映画初出演だった玉置は、本作で大量殺人を犯しながら、自らを正当化し、教誨師を翻弄する死刑囚・高宮を演じた。

 大杉漣演じる教誨師を前に、自分の罪をまるで他人事のように置き捨て、薄ら笑いで死刑制度について講釈をたれる高宮の表情・語り口はセンセーショナルで、二人の掛け合いは息を飲む緊迫感があった。おそらくこの作品で、「すごい役者が現れた」と強く認識した人も少なくないだろう。その演技は高く評価され、第73回毎日映画コンクール・スポニチグランプリ新人賞も受賞している。

 さらに昨年7月期には、『TWO WEEKS』(カンテレ・フジテレビ系)で柴崎(高嶋政伸)の手下・ホンダを演じ、同時期8月末からは『サギデカ』(NHK総合)では、すぐに同一人物と気づかないほど別人の表情を見せた。彼が演じたのは、詐欺アジトの「店長」。登場時は当然「悪人」に見えるだが、振り込め詐欺のかけ子・加地(高杉真宙)とのやりとりの中から、ふとしたときに、人懐こい笑顔や、弱さ、悲しさが見えてくる。そんな「店長」が見せた多面性に、「死亡フラグ」を確信した視聴者は多かったろう。そして、そうした店長の存在が、加地の混乱や焦燥感、暴走のきっかけともなった。

 ちなみに、特筆すべきは、彼の身体能力の高さ。特技はバク転や宙返りだが、『サギデカ』で見せた、お遊びでやってみて華麗にできてしまったポールダンス、全裸で水死体となっていたときの水際の位置取りの確かさからもそれはうかがえる(ちなみに、近年、ドラマで見せた美尻としては、『仮面ライダー響鬼』の斬鬼/松田賢二以来ではないだろうか)。

 また、今年は『半沢直樹II エピソードゼロ 狙われた半沢直樹のパスワード』(TBS系)でワールドビッグデータの社員で、尾形直人演じる城崎と共謀し、何百億もの金を盗み取ろうとする来栖を演じていたし、NHK大河ドラマ『麒麟がくる』では、鉄砲づくりの名手・伊平次として出演する(第6話のキーマンになりそうだ)。

 清潔感と同時にある種のユルさ・チャラさを持ち、繊細さと不敵さ、冷たさと優しさ、色気と愛らしさを併せ持つ玉置玲央。「どこかで見たことある顔」を一度認識してしまうと、どうにも気になり、その姿を常に目で追ってしまう。

 『伝説のお母さん』では、ある意味、クズ夫のモブの成長が裏テーマになるようだし、今後、映像の世界でますます活躍していく役者の一人だろう。

■田幸和歌子
出版社、広告制作会社を経てフリーランスのライターに。主な著書に『KinKiKids おわりなき道』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)などがある。

■放送情報
よるドラ『伝説のお母さん』
NHK総合にて、毎週土曜23:30〜23:59
出演:前田敦子、玉置玲央、井之脇海、MEGUMI、片山友希、前原瑞樹、大東駿介、大倉孝二ほか
原作:かねもと『伝説のお母さん』
脚本:玉田真也、大池容子
制作統括:松川博敬、篠原圭
プロデューサー:上田明子
演出:村橋直樹、佃尚能、二見大輔
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/drama/yoru/densetsu/

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