戸田恵梨香「何でも楽しみなさい」 『スカーレット』去りゆく息子に送った力強い言葉
京都に旅立つ武志(伊藤健太郎)に喜美子(戸田恵梨香)は思いをこめて言葉を送った。NHKの連続テレビ小説『スカーレット』が19週目の初日を迎え、戸田演じる喜美子の母親らしい顔つきをはじめとする、あらゆる表情が魅力的な回となった。
武志が京都に旅立つ日。慌ただしく家を出る武志に喜美子はこう言った。
「楽しむんやで? 何でも楽しみなさい」
つまらないこともしんどいと思うことも、その思いごと楽しめと伝えた喜美子。武志はかつて家庭を顧みず陶芸の道へ突き進んだ喜美子に、「(成功と引き換えに)大事なものを失った」と口にしたことがある。だが、母の言葉を聞いた武志の表情は、陶芸家である喜美子への尊敬と、大学に行かせてくれた母への感謝に満ち溢れており、感慨深いものがあった。目に涙を浮かべながら、明るく笑顔で武志を送り出した喜美子。去りゆく武志の背中をじっと見つめた後、ふっと上を向き涙を堪える演技は、子供の成長を喜びつつも寂しさを覚える、複雑な親の気持ちを表していた。
その後、喜美子は養育費のお礼を伝えようと八郎(松下洸平)に電話するが、女性が電話口に出たことに複雑な思いを抱く。結局その女性は新しい恋人でもなんでもなく、ただの「留守番オンナ」なのだが。喜美子も照子(大島優子)も40歳を過ぎ、酸いも甘いもかみ分けた雰囲気があるが、昔と変わらぬ幼なじみの顔をしている。照子の「もっと世の中知っとけ!」のツッコミとそれに張り合う喜美子のやりとりは、出会った頃のものと変わらない。
物語終盤、直子(桜庭ななみ)と百合子(福田麻由子)、マツ(富田靖子)と過ごす喜美子の姿は姉であり、娘だった。家族全員の飲み物を準備する直子を見つめる喜美子の目は、妹をあたたかく見守る姉の目であり、「幸せな死に方」について話すマツを心配する喜美子の声は、母の健康を気遣う娘の声だった。
10~40代の喜美子を見事に演じ分ける戸田。第19週初日では、年齢だけでなく、関係性で変わる喜美子の表情を堪能することができた。物語の進展も楽しみだが、年代とともに変わりゆく戸田の演技が楽しみだ。
■片山香帆
1991年生まれ。東京都在住のライター兼絵描き。映画含む芸術が死ぬほど好き。大学時代は演劇に明け暮れていた。
■放送情報
NHK連続テレビ小説『スカーレット』
NHK総合にて、2019年9月30日(月)〜2020年3月放送予定
出演:戸田恵梨香、富田靖子、大島優子、松下洸平、福田麻由子 ほか
脚本:水橋文美江
制作統括:内田ゆき
プロデューサー:長谷知記
演出:中島由貴、佐藤譲
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/scarlet/