『チャンネルはそのまま!』が傑作になった理由 芳根京子キャリア最高の好演がもたらすユニークさ

『チャンネルはそのまま!』傑作の理由

 そして、そんな雪丸にかき回されていく周囲の人々に訪れる微かな心の変化も本作を彩る重要な部分だ。往々にして、このタイプの“お仕事ドラマ”というものは主人公の変化や成長が物語の軸として描かれることが主流ではあるが、本作ではそのような展開にはならない(その点もまた『同期のサクラ』に近しい部分と思える)。あくまでも“テレビが好きな視聴者”という視点のままテレビ局内を内側からかき回していく雪丸が、無意識に自分らしさを貫くことで、自然と周囲はその影響を受けていく。そう文字にすると、雪丸はあたかも視聴者の代弁者であるかのように思えるが、それもまた違う。視聴者とはまた違う位置で、無軌道に自分の世界を飛び回っている。よって回を重ねても、主人公と他の登場人物とのギャップが常に広いままありつづけることになり、殊更本作のユニークさを高めていくのである。

 

また、本作には“スポンサーありき”で進められる昨今のテレビ業界に向けた問題提起を促す側面も有している。無論それは、視聴者に向けてはひとつのステートメントのようなものに過ぎず、直接そのテーマを投げかけられるのはテレビ関係者などの作り手側にあるわけだが、“視聴者ありき”というものであると同時に、何よりも“とにかく面白いものを作る”というあまりにも純粋なその気概は、いち視聴者の目から見ても極めて好意的に映るのではないだろうか。複雑なテーマ性が込められた作品であっても、視聴者に見える部分はひたすら楽しいだけのエンターテインメントであり、その中に密かに深い意味合いが込められている。それこそが、真のエンターテインメントと呼ぶにふさわしいものと呼べよう。

 最終話の佳境で、本作の監督を務めている藤村忠寿自らが演じる情報部部長・小倉のセリフにこうある。「いまテレビの前にいる人たちが、そのとき観たいものを放送する。それがテレビ局の使命」。いつでも観たい時に観たい作品を観るというのが常識になっている現在で、崩れかけているテレビならではの面白さ。多くの人と同じ時間に同じものを体験する。それもまたひとつの“臨場感”だ。このドラマにとって、ようやく全国規模の“臨場感”が味わえる機会でもある今回の放送のタイミングは、より本作の魅力と今日性を高めてくれる、またとない機会となるに違いない。

■久保田和馬
1989年生まれ。映画ライター/評論・研究。好きな映画監督はアラン・レネ、ロベール・ブレッソンなど。Twitter

■放送情報
HTB開局50周年ドラマ『チャンネルはそのまま!』
HTBおよびテレビ朝日系列23局にて、2020年1月5日(日)10:00~11:50全国放送(毎週日曜午前10時より放送/全5話)
※一部日時違いあり。各局の放送日時の詳細はHP参照 
NETFLIXほかHTB公式動画配信サービス「北海道onデマンド(https://hod.htb.co.jp/)」でも配信中
出演:芳根京子、飯島寛騎、宮下かな子、島太星(NORD)、瀧原光(NORD)、長田拓郎、斎藤歩、大内厚雄、大鷹明良、ヨーロッパ企画、実川貴美子、藤尾仁志(オクラホマ)、根岸季衣ほか
ゲスト出演:泉谷しげる、酒井敏也、東京03、吉本菜穂子、河野真也(オクラホマ)、東李苑ほか
総監督:本広克行
監督:藤村忠寿(HTB)、山本透(映画監督)、佐々木敦規(ももいろクローバーZステージ演出/映像ディレクター)、木村好克(PRODUCTIONI.G)
音楽:本間昭光
テーマ曲:HTB開局50周年テーマソング「ハイタッチ(Rihwa ver.)」
脚本:森ハヤシ
(c)HTB 北海道テレビ放送株式会社
公式サイト:https://www.htb.co.jp/channel/

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