『テッド・バンディ』が「必見」である理由 シリアルキラー作品の新たな形を提示

『テッド・バンディ』が「必見」である理由

 Netflixでテッド・バンディについて詳しく知りたいなら、本作『テッド・バンディ』の監督ジョー・バリンジャーによる、4つのエピソードで構成されたドキュメンタリーのリミテッドシリーズ『殺人鬼との対談:テッド・バンディの場合』がすでに配信されている。同作からも明らかなように、ジョー・バリンジャーのテッド・バンディという題材へのアプローチの仕方は、『羊たちの沈黙』時代の「実際の事件から着想を得た」ものではなく、『ゾディアック』以降の「エビデンス至上主義」に準じたもの。テッド・バンディの恋人だったエリザベス・クレプファーの手記を原作としている『テッド・バンディ』は、その上で「恋人からの視点」という新鮮な手法がとられていて、一風変わった悲恋もののラブストーリーとしても鑑賞することができる作品だが、そこで描かれている物語はあくまでも事実を元にしている。

 デヴィッド・フィンチャーは『セブン』『ゾディアック』を経て、自らの創作欲求の源流を辿るようにNetflixのテレビシリーズ『マインドハンター』に行き着いた。一方、ジョー・バリンジャーはNetflixのドキュメンタリーシリーズ『殺人鬼との対談:テッド・バンディの場合』の製作を経て、そこからこぼれ落ちたパーソナルな視点からの驚くべきストーリーを『テッド・バンディ』でフィクションの形ですくい上げた。映画とテレビシリーズの境界がなくなった時代における、映像作家と作品の関係、ドキュメンタリーとフィクションの関係、そして映画とテレビシリーズそれぞれのフォーマットに相応しいストーリーテリングのあり方を考える上でも、本作『テッド・バンディ』は必見に値する作品と言えるだろう。

■宇野維正
映画・音楽ジャーナリスト。「MUSICA」「装苑」「GLOW」「Rolling Stone Japan」などで対談や批評やコラムを連載中。著書『1998年の宇多田ヒカル』(新潮社)、『くるりのこと』(新潮社)、『小沢健二の帰還』(岩波書店)。最新刊『日本代表とMr.Children』(ソル・メディア)。Twitter

■公開情報
『テッド・バンディ』
TOHOシネマズ シャンテほか全国公開中
原作:エリザベス・クレプファー『The Phantom Prince: My Life With Ted Bundy』
脚本:マイケル・ワーウィー
監督:ジョー・バリンジャー
出演:ザック・エフロン、リリー・コリンズ、カヤ・スコデラリオ、ジェフリー・ドノヴァン、アンジェラ・サラフィアン、ディラン・ベイカー、ブライアン・ジェラティ、ジム・パーソンズ、ジョン・マルコヴィッチ
提供:ファントム・フィルム、ポニーキャニオン
配給:ファントム・フィルム
(c)2018 Wicked Nevada,LLC

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