『テッド・バンディ』が「必見」である理由 シリアルキラー作品の新たな形を提示

『テッド・バンディ』が「必見」である理由 シリアルキラー作品の新たな形を提示

 『テッド・バンディ』を観て最初に思ったのは、「時代が一周回ったな」ということだった。90年代初頭の時点で国内外の映画やドラマとごく普通に接してきた人ならば誰もが記憶しているように、1991年に公開されたジョナサン・デミ監督『羊たちの沈黙』の世界的大ヒット、及び翌年のアカデミー賞主要5部門受賞をきっかけに、90年代には主にシリアルキラーを題材とするサイコスリラー作品のブームが巻き起こった。代表的な作品はジョルジュ・シュルイツァー監督『失踪』(1993年)、デヴィッド・フィンチャー監督『セブン』(1995年)、ジョン・アミエル監督『コピーキャット』(1995年)あたりだろうか。現在と違って当時はまだ海外のポップカルチャーの流行に敏感だった日本でも、映画、ドラマを問わず数々の類似作が作られるようになり、ディアゴスティーニ刊行の週刊「マーダー・ケースブック」(1995〜1997年)が飛ぶように売れるなどの珍現象も起こった。そのジャンルでは、日本からも黒沢清監督『CURE』(1997年)のような傑出した作品も生まれたわけだが、90年代も終盤になると『ボーン・コレクター』(1999年)や『8mm』(1999年)といったブームの疲弊を象徴するような凡作が量産されるようになり、『アメリカン・サイコ』(2000年)のようなジャンルそのものをカリカチュアした作品が作られるにいたって、ブームは静かに終息していくこととなった。

 その一部始終を体験してきた世代の一人として、テッド・バンディという名前はしっかりと記憶に刻み込まれている。当時のサイコスリラー作品の多くは、過去に起こった現実世界における連続殺人事件から、犯人のキャラクターや事件のディテールの着想を得るという作り方が主流だったが、なにしろブームの発端となった『羊たちの沈黙』において、追われる側(バッファロー・ビル)の犯行のやり口と、追う側(捜査に助言するハンニバル・レクター)のキャラクター造形、その双方において最も参考にされたのがテッド・バンディの事件と彼の人生だったのだから、その名前を忘れるわけがない。もしシリアルキラー界に人気投票のようなものがあったとしたらテッド・バンディは永遠の1位、ベストジーニスト賞における木村拓哉のように真っ先に殿堂入りするような存在だ。

 テッド・バンディが「歴代シリアルキラー」の最重要人物である一方、「シリアルキラー作品」の90年代から現在までの流れを捉える上での最重要人物を一人挙げるとしたら、それは間違いなくデヴィッド・フィンチャーになるだろう。前述したように、当時33歳だったデヴィッド・フィンチャーは、「シリアルキラー作品」ブームの真っ最中にその決定打とも言うべき傑作『セブン』を世に送り出した。そして、その12年後の2007年、世間はすっかりシリアルキラーものに食傷していた時代に、全米犯罪史上最大の未解決事件の一つであるゾディアック事件を題材にした158分(ディレクターズカット版は163分)の大長編『ゾディアック』を発表した。『ゾディアック』はデヴィッド・フィンチャーの作品の変遷を辿る上でも極めて重要な作品なのだが、それは本稿のテーマからずれるので、ここでは同作における事件へのアプローチの仕方に注目したい。未解決事件を題材にしていることから、必然的にアンチクライマックスが予想された『ゾディアック』だが、ここでデヴィッド・フィンチャーはエビデンス至上主義とでも言うべき、「シリアルキラー作品」における新しい手法を提示してみせた。

 そのデヴィッド・フィンチャーの試みが継続的なものであることを知らしめたのが、現在彼が最も力を入れている作品でもある、Netflixのテレビシリーズ『マインドハンター』(2017年〜)だ。シリアルキラーを捜査する手法の主流となっていくFBIにおける犯罪者プロファイリング、その誕生とデータベースの構築過程を、実際に収監されている犯罪者たちへの「インタビュー」を主軸にして描いていく『マインドハンター』。シーズン1で描かれているのは1977年から1980年まで、シーズン2で描かれているのは1980年から1981年まで。ちょうどその時期、収監や脱獄やさらなる殺人を繰り返していたテッド・バンディはシーズン2までには登場していないが、今後、(シーズン2におけるチャールズ・マンソンのように)大きな見せ場としてテッド・バンディがフィーチャーされることがあるかもしれない。ちなみに史実では、FBIのBSU(行動科学捜査班)が初めてテッド・バンディに接見したのは、死刑が執行される4年前の1985年のことだったらしい。

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