それぞれが立場と能力を活かして気候変動に対抗する アメコミヒーローと重なる『気候戦士』の姿
本作で、まさにアベンジャーズの強力な悪役“サノス”のように何度も登場するドナルド・トランプ大統領は、各国に二酸化炭素の排出削減目標を課す“パリ協定”を破棄し、「地球温暖化問題は活動家による嘘だ」と主張している。だがデータ上は地球の二酸化炭素の割合の増加や、温度が上がっていることは事実である。
大気汚染による温度上昇に懐疑的な人々は日本にも少なくないが、すでにその種の意見は、国際的な場では通用しなくなってきているのが現状だ。本作に登場する、映画スターのアーノルド・シュワルツェネッガーは保守系の共和党を支持してきた人物だが、「党派の問題ではない」と、大気汚染についてドナルド・トランプを激しく糾弾している。
シュワルツェネッガーは、カリフォルニア州知事だった時代、車や工場などから排出されるガスを汚染物質と認めようとしないアメリカの政府機関を提訴し、何度も裁判で闘って、最終的に勝訴したというエピソードを本作で語っている。
「車の排気ガスをホースで吸い込んでみなくとも、それが汚染物質だなんてことは誰にでも分かる。なぜわれわれがこんなにも労力を払わなければならなかったのか」……力強くスピーチするシュワルツェネッガーの姿は、まさに彼自身が演じてきた“ヒーロー”であるかのようだ。そして、このような理念を持つ限り、彼も“気候戦士”である。
本作は、このような“気候戦士”を紹介することで、彼らが様々な背景や考え方、個性を持つ、一人ひとり別個の人々であるという、シンプルな事実を伝えている。だからこそ、その個人個人は、完璧な存在でないことも事実であろう。
その行状を細かく突っ込んでいけば、シュワルツェネッガーにも様々な埃は出てくるし、本作の演出についても、あまりに気候活動家を英雄視しているという指摘が成り立つはずだ。筆者個人も、本作でヒーローのように紹介されていく、すべての気候戦士に対して、諸手をあげて賛同するという気持ちにはならなかった。だが、それはむしろ当たり前なのではないだろうか。
環境による被害の少ない持続可能な社会をつくり、未来を明るくしていくことが、彼らの共通の目的だ。国連でのグレタ・トゥーンベリの態度やスピーチの言い回しなどに苦言を呈していても、彼女の掲げる目的そのものに異をとなえる人は少ないはずである。トゥーンベリ自身も、「私のいうことではなく、科学者のいうこと(科学的な事実)に耳を傾けてほしい」と述べているのだ。
筆者も含め、“完璧さ”からは程遠い人であっても、どんな背景を持っている人であっても、気候戦士と同じ目的を共有することはできる。そして、規模の大小に関わらず、そのための具体的な行動を起こしている瞬間、誰もが未来を救うヒーローになれるはずなのである。本作は、そんな気づきを与えてくれる作品である。
■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter/映画批評サイト
■公開情報
『気候戦士 ~クライメート・ウォーリアーズ~』
11月29日(金)ヒューマントラストシネマ渋谷他全国公開
監督:カール-A・フェヒナー
共同監督:ニコライ・ニーマン
制作:フェヒナー・メディア
配給:ユナイテッドピープル
2018年/ドイツ/86分
(c)fechnerMEDIA
公式サイト:http://unitedpeople.jp/climate/