『まだ結婚できない男』桑野は女性への“共感力”が高い? 一線を画す「独身貴族」の姿

『まだ結婚できない男』一線を画す「独身貴族」


 年齢だけでなく、桑野は特段相手の肩書にも興味を示さないようだ。隣人の女優・早紀(深川麻衣)とのデマ情報が週刊誌に載った際にも、桑野はまんざらではなさそうだったものの、それ以上でもそれ以下でもない、といった様子だった。『東京独身男子』の3人はそもそも相手を選ぶ基準が「この俺様にふさわしい女性であるかどうか」という部分に終始しがちであったのに対して、桑野はそういった視点では女性を見ていない。だからこそ、良くも悪くも桑野の前では女性たちも“素の自分”を出せるのではないだろうか。もちろん桑野があまりにマイペースで、一見デリカシーに欠いた言動をとるため女性の怒りを買っているという面も否めないが、彼の傍若無人ともとれる振る舞いは相手から思わぬ本音を引き出せている。大人になって通常であれば自分の気持ちにも折り合いをつけることばかり上手くなり、「本音」で人にぶつかる機会なんて滅多にない中、やはり桑野はいろんな意味で「特別な存在」にはなり得る。


 現在50代の桑野はバブル世代。あのひねくれ者の桑野が若かりし頃、周囲と同じようにバブルの雰囲気に流され沸いていたとは考え難いものの、やはりあの幻の時代を経験した世代というのは男女問わず欲張りで、自分の欲望に忠実である傾向が高いように見受けられる。「アッシー君」に「メッシー君」「キープ君」といった死語に代表されるように、女性が男性を選び(もちろん男性も志願する際にそもそも女性を選んでいる訳だが)、意中の女性に選ばれるために男性側が努力するという、もはや当時の経済活動とも言える一連の流れを間近に感じていたからこそ、桑野世代は女性側を能動的な主体性を持った存在として自然に認識しているのかもしれない。そして様々な選択肢を並べられた中から選び取っていかねばならない女性側の気苦労にも理解があるのかもしれない。

 とは言え、桑野の場合やはり「バブル世代」や「独身貴族男性」などの大枠でも括れない、個体として“変人”であることに間違いはない。そんな彼が一体どうやって、異性である前に他人である存在に興味を持ち、惹かれていくのか。牛歩のような恋模様、しびれを切らさず見届けたい。

■楳田 佳香
元出版社勤務。現在都内OL時々ライター業。三度の飯より映画・ドラマが好きで2018年の劇場鑑賞映画本数は96本。Twitter

■放送情報
『まだ結婚できない男』
カンテレ・フジテレビ系にて、毎週火曜21:00~21:54
出演:阿部寛、吉田羊、深川麻衣、塚本高史、咲妃みゆ、平祐奈、阿南敦子、奈緒、荒井敦史、小野寺ずる、美音、RED RICE、デビット伊東、不破万作、三浦理恵子、尾美としのり、稲森いずみ、草笛光子
脚本:尾崎将也
演出:三宅喜重(カンテレ)、小松隆志(MMJ)、植田尚(MMJ)
チーフプロデューサー:安藤和久(カンテレ)、東城祐司(MMJ)
プロデューサー:米田孝(カンテレ)、伊藤達哉(MMJ)、木曽貴美子(MMJ)
制作著作:カンテレ、MMJ(メディアミックス・ジャパン)
(c)カンテレ
公式サイト:https://www.ktv.jp/kekkondekinaiotoko/

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