“山田裕貴=川端悠理”の切実な叫びが響くーー前川知大『終わりのない』が描くのは“意識の旅”

『終わりのない』がもたらす、不思議な感慨


 そんな山田、奈緒を支えるようなはたらきを見せたのが、前川作品をよく知る前川作品経験者、仲村トオル、清水葉月、村岡希美の三人だ。今作で清水は悠理の幼馴染役に、村岡と仲村は両親役に扮している。幼馴染や親といえば、まだ幼い者にとって、“いつまでも一緒にいられる”という錯覚を起こしかねない存在だ。劇中の言葉を引くならば、“境界線のない一体感”を与えてくれる存在でもある。前川作品の持ち味であるシームレスな場面転換とともに、悠理に寄り添い、また反対に突き放すような関係性を、彼らだからこそ発揮できる安定感で作り上げた。悠理のささやかで壮大な成長を促す役回りである。前川ファンにとって、非常に安心できる三人だろう。

世田谷パブリックシアター+エッチビイ 『終わりのない』 撮影:田中亜紀

 そしてやはり本作を語るうえで、前川率いる劇団「イキウメ」の団員たちの功績について触れないわけにはいかない。前川との劇団活動において、共同クリエーションを重ねている安井順平、浜田信也、盛隆二、森下創、大窪人衛ら五名の劇団員。「イキウメ」の公演は彼ら劇団員に加え、作品ごとに異なる手練の客演陣を迎えて上演される。そこで毎度感じるのは、前川作品は俳優陣のチカラが対等でなければ成立しないのではないかということである。先に述べた三者もそうだが、シームレスに時間と空間を越境してしまう、有機的に機能していく“劇全体”を意識しなければならない。それは“個と全体”という関係が、“僕と人類”の関係へと飛躍する様を描いた本作とも通底し合っている。劇団員である彼らが作り上げる下地とグルーブ感、そして山田たちとのエンカウンターによって生み出される化学反応がなにより小気味よい。彼ら無くして前川作品は成立しないのだ。

 “少年の成長譚”という分類では小品に位置づけられるが、時空を超越する“意識の旅物語”という分類では、やはり壮大な作品である。“ユーリ”としての旅を体験した悠理は、それを自分自身の経験へと変えるに違いない。そうなれば彼は、肉体はそのままでありながら、もうかつての未成熟な高校3年生のままではいられないだろう。劇中に「…夏の空、田舎道、古い町並み、夕焼け、海…」といったワードが登場するのだが、いずれも初めて出会う光景であるにもかかわらず、どこか懐かしさを感じさせるものたちだ。これらだけでなく、なにかに対して、そして誰かに対してふと感じる懐かしさは、私たちが旅の途上、どこかで出会っているからなのかもしれない。本作で得た経験は、いずれどこかで「ひらめき」として現れそうである。それがいつになるのかは分からない。明日かもしれないし、1000年以上も先の宇宙でかもしれない。そんな不思議な感慨に打たれる。

(取材・文=折田侑駿/写真=大和田茉椰)

■舞台情報
世田谷パブリックシアター+エッチビイ 『終わりのない』
2019年10月29日(火)~11月17日(日)
会場 世田谷パブリックシアター (兵庫・新潟・宮崎にてツアー公演あり)
脚本・演出:前川知大
原典:ホメロス「オデュッセイア」
監修:野村萬斎
出演:山田裕貴、安井順平、浜田信也、盛隆二、森下創、大窪人衛/奈緒、清水葉月、村岡希美/仲村トオル
公式サイト:https://setagaya-pt.jp/performances/owarinonai20191011.html

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