『ニッポンノワール』でも物語に誘うキーマンに 井浦新が醸し出す“危うさ”はどこから生まれるのか

『ニッポンノワール』井浦新の“危うさ”

 井浦新は堕天使である。

 最近、とりわけそう思う。

 『ニッポンノワールー刑事Yの反乱―』(日本テレビ系)では強面の公安の刑事・才門要を演じていて、往年の昭和の日テレの刑事ドラマのような、昭和のバイオレンス映画のような空気をプンプン出していて驚いた。その前に出演していた朝ドラこと連続テレビ小説『なつぞら』(NHK総合)での物静かで冗談の似合わない真面目な職人アニメーター・仲さんとはまるで違う役で、出番も感情の出しどころが少なかった分、才門要で発散しているかのようにも見えるほどで。10月27日放送の第3話では主人公役の賀来賢人と激しいアクションを見せた。

『ニッポンノワールー刑事Yの反乱―』(c)日本テレビ

 公安刑事のキャラづけとしてよくある本性のわからなさは、つぶらな黒目がちな瞳で表情があまり変わらない井浦新にぴったり。が、それに加えて人を食ったような感じや粗暴な感じがプラスされ、新たな面が見える。振り返れば、映画『ニワトリ☆スター』(18年)では荒れた生活を送る大阪弁の風来坊から気のいいお好み焼き屋のおやじになる男を演じ、『アンナチュラル』(18年、TBS系)で演じた中堂系は「クソ」を連発する粗野ながら腕のいい法医解剖医。がしかしその態度の裏に隠された繊細さを含めて中堂が大変な人気を獲得、井浦新はセカンドブレイクした。ファーストブレイクは2000年初頭。それについては後述する。

 中堂系人気がちょっとやんちゃな役の継続を後押ししているようにも思え、『宮本から君へ』(19年)では何人もの女性と平行してつきあっているらしきクズを演じている。何にしてもどこか愛らしい部分があるのが女性ファンにはたまらない。今年4月に発売された斎藤工の写真集『JOURNEY』に斎藤へ直筆コメントを寄稿している。そのときの斎藤への呼びかけが「おまえ」。しかも文字がゴリゴリと漢らしい。これにも注目せざるを得ないのだ。

 契機は、ギャングのリーダーを演じた『HiGH&LOW THE MOVIE』 (16年)か。なんといっても恩師である故・若松孝二が映画を撮り始めた頃を描いた『止められるか、俺たちを』(18年)が最高峰に無頼であった。声の野太さ、地に足ついた軸の確かさ、映画で世界と闘ってきた男に渾身で挑んでいた。

『止められるか、俺たちを』(c)2018若松プロダクション

 それまでの井浦新は、透明感のある少し不思議な佇まいの青年役が多かった。ARATAだったデビュー作の『ワンダフルライフ』(99年)がそれを規定したと言ってよく、今年公開された『嵐電』もその系譜にある。世界のどこにも軸足をしっかり置けないままさまよっているような。だから、どの世界も見つめることができるような、そんな役である。世間的に注目されたのは『ピンポン』(02年)。窪塚洋介演じる主人公の相棒役で、ちょっとクールなメガネ男子として女性人気を獲得。これがファーストブレイクだ。ところが、テレビドラマやエンタメ映画とは距離をとり、芸術的な映画を選び、独自のファッションブランドなども立ち上げるなど、世の中に消費されることなくマイペースな活動を行う。そんななかで若松孝二と出会って、『11・25自決の日 三島由紀夫と若者たち』(12年)で三島由紀夫を演じ、それを機にARATAから井浦新に改名、そこからみるみる骨太な面が垣間見えるようになっていく。若松監督との出会いは大きかったのだろうと思う。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「アクター分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる