『ニッポンノワール』でも物語に誘うキーマンに 井浦新が醸し出す“危うさ”はどこから生まれるのか

『ニッポンノワール』井浦新の“危うさ”

 その前からどこかふわっとした外観と内面のわからなさ、危うさなどが魅力的であった井浦新だが、一度、窪塚洋介と再共演した『ジ、エクストリーム、スキヤキ』(13年)の撮影現場で取材したとき、遠くで準備から本番に入る前のわずかの隙間を、神経を研ぎ澄ませて確認しながら、階段の下で話す姿が職人という感じで、しびれたことは忘れられない。よく、俳優が「俳優は特別ではなく、演出部や照明部などと同じ俳優部なのだ」と言うことを耳にするが、まさに俳優部の一員という気がしたのだ。俳優取材はきちんと静かで快適な場所で、ものすごく気遣って、という先入観を覆された。そういう俳優だから、そもそもふんわりした、掴みどころのない人ではなく、現場の人の役が似合うのもそういうことなのだろうと勝手に思う。最近は、Twitterをはじめて、出演作品のTweetを盛んに行っている。『ニッポンノワール』のTweetも多い。

『こはく』(c)2018「こはく」製作委員会

 もちろん、単なる現実的な人ではなくて、地道にやりつつ飛躍を目指していく真の芸術家タイプ。だからなのか、良くも悪くもやっぱりどこにいても目立ってしまうのだ。何を着てもかっこよくファッショナブルに見えてしまうのである。映画『こはく』(19年)では長崎のガラス工場の社長役だが、兄役の大橋彰と並ぶと、ふつうの服のようでなんだかおしゃれに見えるし、『嵐電』(19年)で演じた京都に取材にやってきたノンフィクションライター衛星は、アウトドアファッションのモデルのように見えてしまうのだ。衣裳や持ち物が本人の私物だったらしいが、なにげないアウトドアファッションで嵐電沿線を歩く姿は普通の人とちょっと違う。その溶け込まなさ具合が物語を重層的にする。『なつぞら』も出番が少ないにもかかわらず、メガネも白いハイネックもなにもかもおしゃれに見えた(芸術家アニメーター役だから当然なのだが)。

 きっと井浦新はなにかしらの手違いで地上に降りて人間の営みを見つめている天使に違いない。『悼む人』(15年)の究極の愛を求める宗教家は、神の世界を求める人間だったがその逆。神の世界に背を向けて、清さだけでない汚れも引き受ける者。ARATAから井浦新になって様々な役を演じ、じょじょに地上の者の業にまみれて、本当の人間に肉薄している最中なのではないか。井浦新は映画で、ドラマで、多くの生きる苦しみを抱え込んだ現実世界と格闘している。

『ニッポンノワールー刑事Yの反乱―』(c)日本テレビ

 「LET’S THINK」、『ニッポンノワール』3話で才門が言った言葉は『3年A組ー今から皆さんは、人質ですー』の主人公(菅田将暉)が生徒たちに問いかけた切実な言葉。これを井浦新が言うことでもう、戦いに私達を巻き込もうとしているように思えてならない。

■木俣冬
テレビドラマ、映画、演劇などエンタメ系ライター。単著に『みんなの朝ドラ』(講談社新書)、『ケイゾク、SPEC、カイドク』(ヴィレッジブックス)、『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』(キネマ旬報社)、ノベライズ「連続テレビ小説なつぞら 上」(脚本:大森寿美男 NHK出版)、「小説嵐電」(脚本:鈴木卓爾、浅利宏 宮帯出版社)、「コンフィデンスマンJP」(脚本:古沢良太 扶桑社文庫)など、構成した本に「蜷川幸雄 身体的物語論』(徳間書店)などがある。

■放送情報
『ニッポンノワール ー刑事Yの反乱ー』
日本テレビ系にて、毎週日曜22:30~放送
出演:賀来賢人、広末涼子、井浦新、夏帆、工藤阿須加、佐久間由衣、立花恵理、田野井健、栄信、細田善彦、篠井英介、北村一輝
脚本:武藤将吾
チーフプロデューサー:西憲彦
プロデューサー:福井雄太 、柳内久仁子(AX-ON)
演出:猪股隆一
制作協力 : AX-ON
製作著作 : 日本テレビ
(c)日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/NNY/
公式Twitter:@NNY_ntv

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