『俺の話は長い』言い争いのシーンは真骨頂! 小池栄子、”内と外”を使い分ける巧みな演技術

『俺の話は長い』小池栄子が見せる内向

スクリーンでも発揮される才能

 この才能はスクリーンでも発揮される。2008年公開の『接吻』では、豊川悦司扮する凶悪殺人犯に魅了され、ストーカーに近い行動をとり、最終的には獄中結婚をしてしまう女性・遠藤京子を演じている。上手く社会適応できず、怒りや不満を内に秘めた孤独な女性が、自分に似ていると思わせる殺人犯に共感を覚え、心を開放していく姿は不気味であり恐怖を覚える。これまでは自身の存在感を張り出していく役柄で視聴者を惹きつけてきた小池が、本作では内にしまい込む形で、強烈なキャラクターを形作った。

 『接吻』は映画関係者だけではなく、多くの視聴者に小池が“女優”として非常に高いポテンシャルを持っていることを世に知らしめた。本作で小池は第30回ヨコハマ映画祭主演女優賞をはじめ、第63回毎日映画コンクール主演女優賞など、数々の賞を受賞。ここから小池はさらに映画の作品数と質を上げていく。『パコと魔法の絵本』(2008年)、『パーマネント野ばら』(2010年)、『乱暴と待機』(2010年)など印象的な役柄を演じると、2011年公開の『八日目の蝉』では、男性恐怖症を抱えるルポライター・千草を多面的に演じ、井上真央、永作博美という女優と相対して一歩も引けを取らない演技を見せた。こちらも表現方法は違うが、『接吻』の京子同様、感情を内に向けながら存在を示していく小池の魅力が溢れているキャラクターだ。

 さまざまなキャラクターを演じてきた小池。前述したように『俺の話は長い』で演じる綾子は、物語を通して、満や光司に対して攻撃的に感情を張り出していくのだが、ときにその感情を自分に向ける。そのバランスが非常に心地よい。

 例えば第3話・其の六「酢豚と墓参り」のラストの中華料理店で、父親への思いを巡り満と言い争いになるシーンでは、一方的に満を攻めたてて感情を爆発させたあと、母親である房枝(原田美枝子)から、父が綾子のことを認めてくれていたと労われた瞬間、その感情が自分自身に向かう。そして満が「言っとくけど、この店で親父が好きだったのは酢豚じゃないから。酢豚のたれをかけた炒飯ですから」と発言すると、綾子の両目から涙を流し炒飯を頬張るシーンは圧倒的だった。

 現在公開中の映画『記憶にございません!』の三谷幸喜監督をはじめ、成島出監督、大根仁監督、阪本順治監督、李相日監督、三池崇史監督、吉田大八監督など、錚々たる映画人の作品に出演し、高い評価を得ている小池。2020年2月には、自身が出演した舞台『グッドバイ』を映画化した『グッドバイ 嘘からはじまる人生喜劇』で成島監督と再タッグを組むなど、今後もますます目が離せない。

■磯部正和
雑誌の編集、スポーツ紙を経て映画ライターに。基本的に洋画が好きだが、仕事の関係で、近年は邦画を中心に鑑賞。本当は音楽が一番好き。不世出のギタリスト、ランディ・ローズとの出会いがこの仕事に就いたきっかけ。

■放送情報
土曜ドラマ『俺の話は長い』
日本テレビ系にて、10月12日(土)スタート 毎週土曜22:00~22:54
出演:生田斗真、安田顕、小池栄子、清原果耶、原田美枝子
脚本:金子茂樹
演出:中島悟、丸谷俊平
プロデューサー:櫨山裕子、秋元孝之
チーフプロデューサー:池田健史
主題歌:関ジャニ∞「友よ」
創作協力:オフィスクレッシェンド
制作著作:日本テレビ放送網
(c)日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/orebana/

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