ブラッド・ピットが体現する“白人男性”の光と影 ハリウッドを変える力を持つ唯一無二のスターへ

ブラッド・ピットがハリウッドを変える?

ホワイト・プリビレッジの光と影を体現するピット

 これら3作を振り返ると、ピットの俳優としての強みはホワイト・プリビレッジの光と影を象徴しているキャラクター表現にあるのではないかと筆者は思う。ホワイト・プリビレッジとは格差社会のアメリカにおいて、“マジョリティである白人男性が受ける優遇”を指す概念だ。アメリカの権力中枢は白人男性がマジョリティを占めていることから、白人男性は有色人種よりも社会的・経済的に優遇される。例えば、白人男性は有色人種の男性よりも、警察官に路上で職務質問をされる頻度が少ないことや、昇進のスピードが速いことなどがよく話題に上る。

 しかし、このホワイト・プリビレッジは白人男性にとって諸刃の剣だ。なぜなら、貧困地域の白人男性はプリビレッジなぞもはや享受できないのに、白人男性だからといって優秀でいることを当然のように求められ、期待と現実のギャップに苦しむこともある。また、成功した白人男性とて、自身が築いた成功がプリビレッジの結果だと過小評価されてしまうこともあるだろう。

 ブロンドヘア、ブルーアイ、整った顔立ちに角張った顎は、アングロサクソン的な“男らしい美しさ”の特徴だ。これらをすべて兼ね備えた中流家庭出身のピットはホワイト・プリビレッジの光を浴びて育ってきただろう。だが、彼はプリビレッジの影を映し出した役柄に本領を発揮するように見える。

 例えば、『12モンキーズ』の精神病者ジェフリー・ゴインズはイカれたことばかり言っているが、よく耳をすませると現代の消費社会やヒューマニティについて哲学的な批判をしているし、『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』の生まれながらに老人で歳をとるごとに若返るベンジャミンは現代社会における人間の“生き方”が既に死んでいるのではと我々に問いかけるメタファーだ。名門大学を蹴ってプロの野球選手となったのに、選手としては芽が出ず引退し、ゼネラルマネージャーとして弱小球団を改革していく『マネーボール』のビリー・ビーンは、まさに白人男性の理想と現実の格差を映し出している。

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』

 現在公開中のタランティーノ監督作『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』でピットが演じるクリフは、レオナルド・ディカプリオ演じる落ちぶれ俳優のリックの運転手でもあり、友人でもあるスタントマン。ともすれば傷つきやすく弱々しいリックに対し、クリフは白人男性が社会から期待される“アメリカ人らしい忠誠心、強さや男らしさ”を補う役割があるが、どこか影を抱えているキャラクターだ。ピットのパフォーマンスは、オスカー助演男優賞ノミネート確実視という声も上がるほど素晴らしい。

 一方、プランBが制作にも関わり、ピットが主演している最新作『アド・アストラ』はジェームズ・グレイが監督し、リアルで壮大な映像や音響、ヒューマニティや現代社会を示唆した深い物語性が批評家からも高く評価されている。

 ピットが演じる宇宙飛行士ロイ・マクブライドはどんな非常事態でも脈拍が乱れぬほど冷静沈着で勇敢な“男らしい”男だが、それが故に妻にも捨てられる。本作は、命の源である宇宙を舞台に父親探しをするという謎を通して、現代社会における男性のジェンダー・ロールや人生の価値観に問題提起した物語なのだ。

『アド・アストラ』

 やはり、ピットの得意とする表現はホワイト・プレビレッジを恩恵を受けていたかと思われる男が、実は脆く壊れているというキャラクターにあるのではないだろうか。そして、そこにマジョリティもマイノリティの観客も共感してしまうのかもしれない。

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