ジョニー・トーの傑作を野心的リメイク! 狂人続出の『毒戦 BELIEVER』は男2人の「情」の物語
対して本作『BELIEVER』は「情」の映画だ。それはサブタイトルの『BELIEVER』=『信じるもの』からも明らかであるし、監督を務めたイ・ヘヨンも「オリジナルがハードボイルドの権化だとすれば、私はハードボイルドの土台の上にウェットさを加えたかった」と語っている(しかしハードボイルドの権化って凄い表現だな)。この言葉の通り、本作はオリジナルとは全く異なる映画に仕上がっている。本作の最大の魅力は、刑事のウォノとラクの間に生じる「情」だ。たしかに本作は『ドラッグ・ウォー』のストーリーをなぞるが、それも中盤まで。後半からは原作と全く違う方向に話が転がっていく。韓国ノワールの名作たち、『友へ チング』(2001年)、『新しき世界』(2013年)、『アシュラ』(2016年)、『名もなき野良犬の輪舞』(2017年)に連なる、“男2人、どこまでも……”的な「情」の物語へ行くのだ。これこそ私が頭を打って記憶を消したいと思った原因だ。どうしてもオリジナルと比較してしまい、答え合わせのように見てしまう。「あ~、ここをこう変えたのね」という気持ちがノイズになるくらい、2人の物語が面白い。もし『ドラッグ・ウォー』を見ずにコレを見ていたら、もっと夢中になれたのに……! と悔しい気持ちでいっぱいだ。
また、オリジナルと正反対な部分は「情」の有無だけではない。オリジナルは荒涼とした中国の田舎を舞台にしていたのだが、本作はロケーションやセットがリッチでオシャレ。登場人物たちもリアリティよりハッタリ重視だ。シャブの力で常時ハイテンションのドラッグ夫婦や、「共に神に祈りましょう」と言いながら人をボコボコにするマッド・クリスチャンなど、『ドラッグ・ウォー』にも過去のノワール映画でもあまり見なかった怪人・奇人が続出する。アクションも充実しており、爆破と銃撃戦はもちろん、格闘シーンまである。韓国ノワールのお家芸である情・情・情の絡み合いをやりつつ、アクション映画的な見せ場まで用意してくれているのが嬉しい。
個性豊かな狂人たちが暴れ狂い、“男2人、どこまでも……”のウェットさでも魅せてくれる。『ドラッグ・ウォー』が香港最高峰の鬼才が(ある意味で)事故的な形で完成させた傑作だとすれば、本作はそれら全てを踏まえた上で、自分たちの持ち味で勝負した作品だといえるだろう。偉大なオリジナルへ真っ向勝負を仕掛けたリメイク作品であり、韓国ノワール映画の新たな名作の誕生だ。
■加藤よしき
昼間は会社員、夜は映画ライター。「リアルサウンド」「映画秘宝」本誌やムックに寄稿しています。最近、会社に居場所がありません。Twitter
■公開情報
『毒戦 BELIEVER』
10月4日(金)シネマート新宿ほか全国順次ロードショー
監督:イ・ヘヨン
脚本:チョン・ソギョン
出演:チョ・ジヌン、リュ・ジュンヨル、キム・ジュヒョク、チャ・スンウォン、パク・ヘジュン
配給:ギャガ・プラス
原題:Believer/2018年/韓国/韓国語/124分/カラー/シネスコ/字幕翻訳:根本理恵
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公式サイト:gaga.ne.jp/dokusen