「週末映画館でこれ観よう!」今週の編集部オススメ映画は『ある船頭の話』

編集部の週末オススメ映画(9月13日~)

 映画が始まった瞬間、その映像の美しさに息を飲まずにはいられません。櫂をくゆらせるように渡し舟を漕ぐ船頭。川を取り囲む木々の深い緑。日本の失われた原風景がこれでもかと映し出されていきます。撮影を担当したのは、『花様年華』『ブエノスアイレス』など、ウォン・カーウァイ作品のカメラマンで知られる名匠クリストファー・ドイル。ロケ地も日本であり、監督・キャスト陣も日本人にも関わらず、どこか中国映画のような、異国情緒を感じさせます。

 物語の主人公は船頭・トイチ(柄本明)。山あいの河を渡す船頭である彼は、村と川向こうの町を行き来する人々の足として質朴な暮らしを送る。しかし、川上には巨大な橋ができあがりつつあり、トイチが渡していた人々も徐々に減っていく。そんな中、謎の少女(川島鈴遥)がトイチのもとにやってきて……というのが本作のおおまかなあらすじです。

 おのずと物語の舞台はほぼ河原。登場人物もトイチを中心にわずかであり、スペクタクル要素とは無縁です。にも関わらず、徐々に変化していく風景、そして人々とトイチの会話、トイチの暮らしぶりに、映画後半には胸が締め付けられるような痛みを感じます。

 利便性と経済合理性を追求した結果、今を生きる私たちの手からこぼれおちてしまったもの。そしてそこに取り残された名もなき人々。『ある船頭の話』は、私たちが失ってしまったかもしれない、あるいは気づくことができなくなってしまった問題が、刻みこまれていました。オダギリジョー監督の渾身の思いが詰まった一作、是非映画館の大スクリーンで観ていただきたいです。

■公開情報
『ある船頭の話』
新宿武蔵野館ほか全国公開
出演:柄本明、村上虹郎、川島鈴遥、伊原剛志、浅野忠信、村上淳、蒼井優、笹野高史、草笛光子、細野晴臣、永瀬正敏、橋爪功
脚本・監督:オダギリジョー
撮影監督:クリストファー・ドイル
衣装デザイン:ワダエミ
音楽:ティグラン・ハマシアン
配給:キノフィルムズ/木下グループ
(c)2019「ある船頭の話」製作委員会
公式サイト:http://aru-sendou.jp
公式Twitter:https://twitter.com/sendou_jp
公式Facebook:https://www.facebook.com/sendou.jp

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