大友克洋監督やレディー・ガガも アカデミー賞会員新規招待者から見る、映画界多様化の流れ

 べネチア国際映画祭が閉幕し、現在はトロント国際映画祭が開催されている真っ只中ということもあって、着々と映画界全体が来年行われる第92回アカデミー賞へ向き始めている。トロントといえば昨年の『グリーンブック』をはじめ、過去11年で10作品をアカデミー賞作品賞候補へ送り出した観客賞の結果に注目が集まるのはもちろんのこと、多くの有力作が北米圏でのプレミア上映を迎える映画祭としても知られている。

『 I T/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』(c)2019 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

 また北米興行もサマーシーズンが終わり、これから賞レースに向けた有力作が相次いで公開されるオータムシーズンが始まる。9月最初の週末を大ヒットスタートで飾った『IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』がホラー映画というジャンルの壁を取り払って賞レース参入できるのか、というのも気になるところだが(ワーナーは『ジョーカー』に本腰を入れてくることだろう)、今後『アド・アストラ』や人気ドラマの映画版『Downton Abbey』、レニー・ゼルウィガーの復活が話題の『Judy』など、毎週のように賞レース入りを目論んだ作品が公開されることで、大作がひしめき合うサマーシーズンとは異なる活気が生まれることだろう。

『アド・アストラ』(c)2019 Twentieth Century Fox Film Corporation

 本項では、そうした賞レース本格化を前に、アカデミー賞のゆくえを直接的に決める“アカデミー会員”について触れていきたい。このアカデミー会員というのは「映画芸術科学アカデミー」の会員のことであり、アカデミー賞を選考する権利を有した映画人たちのことだ。会員はそれぞれの分野に分けられており、例えば主演男優賞のような演技部門は俳優の分科に属する会員の投票によってノミネートが決定。そして各部門のスペシャリストたちによってノミネートが出揃ったのち、受賞者を決める投票はすべての会員が行うのである(その年の顔となる作品賞に関しては、ノミネート段階から全会員に投票権が与えられている)。

 この会員になれる資格を持つのは、基本的にアメリカの映画界に携わってきた人物。もしくは過去にアカデミー賞などの主要賞にノミネートや受賞を果たした人物ばかり。ところが近年は、大きな変革を遂げようとしている。というのも、2016年の第88回、『スポットライト 世紀のスクープ』が作品賞を受賞した年のこと。演技部門のノミニーが全員白人であったことや、監督賞候補者が全員男性であったことから批判が噴出。公平性を保つ目的で、アカデミー会員の見直しが行われることとなったのである。そのため翌年から、これまでにない人数の新規会員を招待。昨年は過去最多の928人が招待され、その中には日本の新海誠監督や細田守監督の名前も含まれていた。

『天気の子』(c)2019「天気の子」製作委員会

 そして先日、2019年度の新規招待者として842人が招待されたことが発表され、その全員の顔ぶれが公表された。日本人では大友克洋監督や押井守監督。さらにはスタジオ地図の斎藤優一郎プロデューサーら10名。アニメ作品のクリエイターが目立つのは、それだけ日本のアニメ作品が世界に通用している何よりの証といえよう。たしかに、他の部門を見渡してみても候補入りする作品の多くが英語圏の実写作品ばかり。非英語圏の作品がハリウッドの作品と互角に渡り合うことができるのは、これまでの歴史を振り返っても、ほとんど長編アニメーション賞だけと言ってもいいような現状なのだ。すでに多様性を重んじている部門から、徐々に他の部門へもその意識が波及していくこと、それがアカデミー賞変革に必要な第一歩というわけだろう。

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