“詐欺”題材のドラマはなぜ増えている? 『サギデカ』が目指した、加害者・被害者の丁寧な心理描写
なぜ若者たちが振り込め詐欺に手を染めるのか
――さまざまな特殊詐欺の作品を見てきましたが、『サギデカ』は第1話の詐欺被害者である泉ピン子さん演じる主婦の描き方が特に丁寧だと感じました。
須崎:世の中の人は、これだけ振込詐欺に気をつけろと言われてるのに、「なんで騙されるんだ、不注意じゃないか?」と思ってるかもしれません。僕自身もそうでした。でも調べていくと、詐欺犯罪者の側は本当に巧妙に被害者を心理的にコントロールしているんです。それにお年寄りからしたら、自分の子供が窮地に陥ったら、身を投げうってでも助けてやりたいと思うのが心情です。そういう心理を利用され、だまされた高齢者は、守ろうと思った子供からも責められるし、自分自身も責めてしまう。自殺までいかなくとも、うつ病になってしまったり、家族との間に亀裂が入ったりすることがあるんです。詐欺はお金をだまし取るだけでは終わらず、被害者に様々なダメージを与えるということ、そこを描く必要性は強く感じていました。
――第1話では加地が掛け子として成功し興奮する姿も描かれていました。一般企業が実現できないようなある種の働く上での達成感が、詐欺集団では実現できているのが実に巧妙だと感じました。
須崎:どうして若者が振り込め詐欺に手を染めるのかというと、苦労せずにお金を手にすることができるからというのは勿論あると思います。でもどうやらそれだけではない。詐欺犯には詐欺犯なりの工夫とか苦労とかもある。電話をして実際に高齢者にお金を振り込んでもらうまでには、緊迫感もあるし、人を騙せるようになるためには、彼らもその役になりきらないといけない。それこそ被害者からお金が手に入ったときには、本当に息子の気持ちになって「ありがとう」と言わないといけない。そういうことが詐欺のマニュアルには書いてあるんです。
――掛け子の演技が訓練でうまくなる過程については、『スカム』(MBS・TBS系)でも描かれていましたし、『土曜スタジオパーク』(NHK総合)に木村文乃さんと眞島秀和さんが出演した際にも、そういう過程について、演劇のワークショップみたいな面もあるという感想をもらしていました。
須崎:詳しいジャーナリストに聞いたところでは、掛け子が過酷なトレーニングをしたり、部屋に一日缶詰状態でやっている中で、やっと振り込んでもらうことに成功すると、すごい達成感があるらしいんです。ドラマの中でも、詐欺犯たちの達成感を描いたシーンがありましたが、それを観た視聴者の方が「この雄叫びのシーンだけを見ると、企業もののドラマで何かをやりとげたシーンみたいだ」とTwitterに書かれていたのが言い得て妙だなと。今の若い人たちは、ああいう達成感とか連帯感を得ることが難しくなっているような気がします。それはかつてのように多くの人が正社員で雇用されて企業自体も右肩上がりで安定していてということがなくなってきたこともあるかもしれません。詐欺グループもピンからキリまでありますから、適当にやってるところもあるでしょう。しかし、第1話で描いたように、言葉巧みに教育、マインドコントロールされた結果、善悪の物差しがおかしくなってしまう若者もいるんだろうなと思います。
――モチベーションを巧みにコントロールしている感じがありますね。逆に警察のほうが経費がちゃんと落ちなかったりというある種“ブラック”な労働状況の中でも犯人逮捕のモチベ―ションを保たないといけないという。
須崎:警察の人たちが、いかに信念を持って捜査しているかをどうやって描くかはすごく考えました。主人公の今宮は、両親もおらず過酷な状況で育ってきた詐欺犯の加地に、どう説得力を持って「それでも詐欺は間違っている」と反撃していくか。第1話の取り調べ室のシーンでは、今宮が加地の心をどうやって開かせていくのかが重要で。もちろん彼女は正義感が強いんですが、それだけでは加地を落とせない。だから、やっぱり懐に飛び込んでいくことが重要なんですね。ある刑事さんから聞いたんですが、被疑者を取り調べる時には「そいつの故郷を必ず見に行きます」と言うんです。昔から刑事ドラマで描かれるベタなパターンのように思えるかもしれないけど、やっぱりそうなんだなぁと感じ入りました。だから、ドラマの中でも、今宮は加地の故郷に行くんですね。
――加地は非常に用心深い性格で、自分の身元がわかるものを一切自宅にもおいてなかったわけで、名前も知られたくない。でも、今宮が故郷にまで行って、彼の名前を見つけ出してきたときには、加地は不思議と名前を取り戻したような気持ちになってほっとしてるようにも見える。あそこに、加地の複雑な気持ちが表れていて、何度見てもぐっときました。
須崎:加地は、自分のことは突き止められないだろうと思っていたけれど、今宮は彼の魂のよりどころでもあった一曲の歌をとっかかりに突き止めた。捜査とはいえ、そこまでしてくれるんだということは、彼の中では不思議なうれしさがあったってことなんでしょうね。