『帰れない二人』ジャ・ジャンクー監督が語る、中国の変化 「きっとみんなからの共感を得られる」
ジャ・ジャンクー監督最新作『帰れない二人』が、9月6日より全国公開中だ。31歳の若さで初めてカンヌ国際映画コンペティション部門に出品された『青の稲妻』と、ヴェネチア国際映画祭で金獅子賞(グランプリ)に輝いた『長江哀歌』、ターニングポイントである2作を踏襲しつつ進化させた本作は、ジャ・ジャンクー監督5作品目となる第71回カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品作。
山西省大同で、裏社会で生きる男ビン(リャオ・ファン)とその恋人・チャオ(チャオ・タオ)の2001年から2018年の18年間を、変わりゆく中国を背景に描いた。ジャ監督に、前作『山河ノスタルジア』との違いや、これまでジャ・ジャンクー監督の多くの作品に出演し、ジャ監督の妻でもあるチャオ役のチャオ・タオの魅力、中国の変化について語ってもらった。
「どこの国の人にも、愛の物語として観てもらえると思う」
ーー前作『山河ノスタルジア』では1999年から2025年、本作『帰れない二人』でも2001年から2018年という長い歳月を描いています。
ジャ・ジャンクー:振り返ってみると、僕が長い時間軸で撮った作品はあまり多くないけど、最近は「時間」という容器の中で、人物を捉えてみたいと思うようになってきた。今、僕が興味があるのは物事の結果ではなく、そのプロセス。今回もその考えに基づいて作品を作っていた。
ーー『山河ノスタルジア』の時と、そのプロセスの描き方に変化はありますか?
ジャ・ジャンクー:大きな時間の流れで人物を動かすという構成は変わらないけれど、『帰れない二人』では、人間の感情の変化を正確に描こうと思っていた。本作が2001年から始まるのには理由があるんだ。2001年というのは新世紀を迎えた年であり、中国でも北京オリンピック開催、WTO加入、大規模な高速道路の建設、インターネット社会への突入とあらゆることが起こった、激動の時だった。本作の主人公であるビンとチャオは2001年という、古い時代と新しい時代のちょうど狭間を経験している人物なんだ。
ーービンとチャオは裏社会の人間でもあります。
ジャ・ジャンクー:僕は小さい時から、裏社会に生きている人々をよく知っていた。文化大革命以降、職がなくて裏社会に手を染めるような人たちをたくさん見てきたよ。裏社会には裏社会の儀礼というものがある。文化大革命以降の裏社会の人たちは、香港ノワールや任侠映画からその儀礼を勉強していた。ただ、僕はこの作品を作る時、決して香港ノワールみたいに撮ってはいけないと自分に言い聞かせていたね。ビンとチャオを、裏社会の英雄としてではなく、日常の中に当たり前にいる人物として描きたかった。きっとみんなからの共感を得られるんじゃないかな。これは中国を舞台にした物語だけど、どこの国の人にも、愛の物語として観てもらえると思う。
ーーそういった、ありふれた人物の描写に興味をもつきっかけは?
ジャ・ジャンクー:それは、自分自身がそういうありふれた小さな町の出身だから。僕はずっと、自分の意に沿わない生活を強いられている、小さな地方都市の人々を描いてきた。今回もそんな町の裏社会の人たちが、どういう苦難に見舞われてきたかに注目した。中国の激変に伴って、彼らの間でも価値観の変化が起きたんだ。昔は「義理と人情」で任侠の世界が成り立っていたけれど、今は「金と権力」。そんな中国人の内面の変化を、僕は撮りたいと思っていた。