『太陽の王子 ホルスの大冒険』インタビュー
大方斐紗子が振り返る、高畑勲や宮崎駿らと過ごした日本アニメ創成期の現場
ヒロイン・なつ(広瀬すず)が「漫画映画」と称された草創期の日本アニメの世界でアニメーターを目指す姿を描くNHK連続テレビ小説『なつぞら』。現在、東京国立現代美術館では「高畑勲展」も開催されており、日本アニメーションの黎明期にスポットを当てたコンテンツが集中している。そんな中、先日新海誠監督映画『天気の子』が第92回アカデミー賞長編映画賞部門の日本代表に選ばれたことが発表され、日本のアニメーション産業はますますの向上を見せている。
今に続く日本のアニメーションの土台となる作品を多く作ったのが、東映の当時の社長だった大川博が「東洋のディズニー」を目指すべく設立したアニメ制作会社、東映動画(現・東映アニメーション)。1950年以降、数多くの作品が発表されたが、その一つであり、高畑勲の初の長編演出(監督)として今も高く評価されているのが『太陽の王子 ホルスの大冒険』だ。今回、本作が東映チャンネルにて放送されるにあたり、主人公・ホルス役の声優を務めた大方斐紗子に、当時のエピソードや声優・女優にかける思いについて語ってもらった。
「『この作品の中で生きるぞ』という思い」
――宮崎駿さんが、2018年の高畑勲さんを偲ぶ「お別れの会」で「僕らは精一杯あの時生きたんだ」と、特に思い入れのある作品として『太陽の王子 ホルスの大冒険』を語っていました。当時の現場の熱量はどのようなものでしたか?
大方斐紗子(以下、大方):すごいものでした。「この作品を成功させる」とかではなく、「この作品の中で生きるぞ」という思いをスタッフさんも声優さんも全員が持ってらっしゃるようなエネルギーに溢れていて。スタッフさんも優しい方ばかりで、キャラクターやシーンの背景を詳しく説明してくださったことをよく覚えています。
――高畑さん、宮崎さんとは当時、現場でお会いになりましたか?
大方:高畑さんは非常に静かでずっと影に隠れていらして、宮崎さんの方が印象強かったので、この方が演出なんだろうなと思っていたんです(笑)。アテレコって、当時は怒鳴られたりキツい現場が多かったのですが、宮崎さんは非常に優しく私たちと向き合ってくださいました。
――実際の収録はどのように進んだのでしょう?
大方:非常に丁寧に作り上げていきました。まず始めに、平幹二朗さん(悪魔グルンワルド役)と市原悦子さん(ヒルダ役)と私の3人だけ、ラジオドラマのように声だけを吹き込みました。こんな時にはこんな音楽が流れるんですよと、私たちがイメージしやすいように教えていただき、音楽を流してくださり、とてもワクワクしながら声を録って、その後に録った声を聞いて絵を描かれていました。そして何年か後に、その描かれた絵に声をあてるんです。一部分でしたが、それが年をまたいで数年にわたり、随分と何回も呼ばれたような気がします。
――そんなに長年の間制作されたんですね。
大方:完成作品を観た時は、とうとうできたかという思いもありました(笑)。でもやはり、丁寧に作られているなと感じたのが一番大きかったです。
――ホルスの声をあてる際に工夫したり、役作りの面で意識したことはありましたか。
大方:本番では吸いませんでしたけど、オーディションを受けた時には、「男の声」を要求されていることを意識して、タバコをいっぱい吸って声を潰して臨みました。下の声を鍛えるということまで発想がなくて、本当に愚かだったなと思うんですけど。どんな低い声でも響きがなかったら、その役の表現には届かないだろうと。私は声を潰すようなやり方をしてしまったのでド下手だろうなと思って、怖くてなかなか作品が観られなかったんですが、改めて見た時に思っていたよりも子供の声が出ていたのでよかったなと思いました。
――一番、印象に残っているシーンは?
大方:ヒルダとの会話ですね。一般的な強い者たちとの向き合い方と、ヒルダに対しての向き合い方には明確な違いがあって、印象的でした。ホルスにはやっぱり弱い部分もあるのしょうが、何としても立ち向かっていくという、若者の強さを持っていて、とても魅力的だなと今も感じています。