映画・音楽業界ともに大きなメリット クイーン、エルトン・ジョンなど音楽映画増加の背景は?
ハリウッド・リポーターによると、2019年の日本の上半期の映画興行は、昨年よりも16%も上回っている。その1つの理由に挙げられたのが、音楽映画『ボヘミアン・ラプソディ』の興行的な大成功だ。昨年の11月9日に公開された同作は、映画館によってはシングアロング上映や拍手・発声・コスプレ等OKの応援上映などを行ったことで、観客が何度も映画館に足を運び、公開日からなんと27週間も上映された。そして、世界興行では9億300万ドル(985億8千万円=1ドル106円換算)の興行を叩き出し、アカデミー賞では俳優ラミ・マレックの主演男優賞を含め、4部門も受賞した。
そんな記録的な『ボヘミアン・ラプソディ』の成功と共に、レディー・ガガ主演の『アリー/ スター誕生』、歌手エルトン・ジョンを描いた『ロケットマン』、ダニー・ボイル監督の新作『イエスタデイ』などが、次々に音楽映画として全米で公開された。そして、これから公開予定の作品では、テイラー・スウィフト出演のミュージカル『キャッツ』、スティーヴン・スピルバーグ監督のミュージカル『ウエスト・サイド物語』などがあり、さらに現在制作中の音楽映画では、ジェニファー・ハドソンがアレサ・フランクリンを演じる『Respect(原題)』、トム・ハンクスがエルヴィス・プレスリーのマネージャーを演じるタイトル未定の作品、デヴィッド・ボウイを描いた『Stardust(原題)』、ボブ・マーリーを描いたタイトル未定の作品、サーシャ・ガヴァシ監督のボーイ・ジョージを描いたタイトル未定の作品などがある。今回は、なぜこれほどまで、一挙に音楽映画の制作が動き始めたのかを追求してみたい。
まず、その原因の一つに、音楽映画では、知名度のあるハリウッドスターが主役でなくても、劇中で使用されている音楽を主役として扱うことができる点が挙げられるだろう。例えば、今アメリカ公開中の映画『Blinded by the Light(原題)』では、ほぼ無名のヴィヴェーク・カルラを主演に据え、パキスタン人の両親を持つ移民の目立たなかった16歳の男の子が、ブルース・スプリングスティーンの楽曲に勇気付けられ、人生を変える決断をしていくという設定で描かれている。全編にスプリングスティーンの魂の楽曲が流れ、まるで彼の楽曲がキャラクターのように、主人公の思いを観客に伝達していく。これは、ダニー・ボイル監督が手がけた映画『イエスタデイ』も同様で、主役を演じたヒメーシュ・パテルは、英国のTVシリーズには出演していたが、ダニー・ボイル作品の主役を張るには、世界的な知名度は低い。だがストーリー設定を、ザ・ビートルズが消えてしまった世界で、唯一、彼らの楽曲を歌える存在になったシンガー・ソングライターを主人公にしたことで、全編に世界を席巻したザ・ビートルズの名曲が散りばめられ、改めてザ・ビートルズのすごさを痛感させられる作品に仕上がっているのだ。このようにミュージシャンの楽曲を、まるでキャラクターのように扱うことで、観客が音楽とのユニークな関係性を、映画内に見出しているのだ。