杉野遥亮が体現する、グレーの世界の不気味さ 『スカム』反社会的勢力と日常はすぐ隣にある

『スカム』杉野遥亮が体現する不気味さ

 本作が恐ろしいのは、反社の実態が描かれているからではなく、振り込め詐欺に加担する反社と呼ばれる人たちが、自分たちの日常から離れた異常者の集団ではなく、実は自分たちと大して変わらない存在だと気付かされ、油断すると「その気持ちわかる」という共感の回路が生まれてしまうことだ。

 根幹にある豊かな老人に対する持たざる若者たちの怒り(それが仮に、詐欺グループが犯罪行為を正当化するために生み出した言い訳だったとしても)を理解してしまえば、その瞬間、彼らを他人だとは思えなくなってしまう。

 その意味でも本作の中核となっているのは、草野を演じる杉野遥亮だろう。当初は普通の青年だった彼が、詐欺の世界にハマって変貌していく話かと思っていたが、むしろ見た目は好青年のまま変わらないのに、詐欺師としてグループの中で成長していく草野の在り方にこそ、振り込め詐欺というグレーの世界の不気味さが体現されていると言えるだろう。

 杉野遥亮は現在23歳。松坂桃李にあこがれて応募した2015年のFINEBOYS専属モデルオーディションでグランプリを獲得し、2016年にWEBドラマ『民王番外編 秘書磯貝と怪しい6人の客』(テレ朝動画)で俳優デビュー。185cmの高身長と爽やかなルックスを武器に『兄に愛されすぎて困ってます』(日本テレビ系)や『花にけだもの』(dTV、FOD)、『ミストレス~女たちの秘密~』(NHK総合)などのドラマに出演してきた。

 筆者が杉野に注目したのは、Paraviで配信されたドラマ『新しい王様』だった。

 金に執着しない謎の実業家のアキバ(藤原竜也)と金で買えないものはないと豪語する実業家の越中勲(香川照之)がテレビ局買収を目論む本作は、現在のテレビの在り方を問いかける意欲作だった。『スカム』が底辺で暗躍する反社たちの物語だとしたら、『新しい王様』は億単位のお金を動かす投資家たち天上人の物語だ。

 本作で杉野が演じたのは、美女をセレブに派遣する人材派遣会社を起業する青年・鴨宮コウシロウ。セレブとコネクションを築いて必死で成り上がろうとする彼は、アキバや越中に較べると平凡な青年だ。

 藤原と香川という怪優に挟まれて右往左往する杉野の姿は、最初は無個性で味気なく見えて、凡人のくせに特別な存在になろうとするコウシロウの姿に痛々しさを覚えたが、今振り返ると、怪人ばかりの中で、もっとも人間味のある青年だったと好感を持つ。

 杉野の演技は良くも悪くもケレン味が薄いのだが、だからこそ普通の青年をしっかりと演じることができる。これは彼にとってもっとも大きな武器だ。

 杉野のような普通を演じられる俳優が真ん中にいると脇を固める個性派俳優たちのアクの強さがより際立つ。だからこそ『スカム』のようなダークな作品においてはなくてはならない存在なのだ。

※柳俊太郎の「柳」は旧字体が正式表記

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■放送情報
MBS/TBSドラマ『スカム』
MBS(関西)にて毎週(日)24:50〜放送
TBS(関東)毎週(火)25:28〜放送
出演:杉野遥亮、前野朋哉、山本舞香、戸塚純貴、福山翔大、水間ロン、若林拓也、華村あすか、柳俊太郎、山中崇、和田正人、西田尚美、杉本哲太、大谷亮平
演出:小林勇貴、原祐樹
脚本:継田淳
原案:鈴木大介『老人喰い』(ちくま新書)
(c)「スカム」製作委員会・MBS
公式サイト:https://www.mbs.jp/drama-scams/
公式Twitter:https://twitter.com/scam_0630

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